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    無題1

     
     激戦が続く九州中部戦線の渦中。
     人類側不利に傾く数地区において、士魂号三番機は目の覚めるような、異常ともいえる戦果をあげていた。

     2回のミサイル斉射により、敵の大半は壊滅。
     斃したスキュラは3体。
     休戦期まで残り四週間足らずとなったその日、速水の累積撃破数はすでに200を超えようとしていた──。



     オペレーターの元へ、友軍機からの要請が入る。
    「援軍を頼む!幻獣の進路方向、スカウト1名が孤立した。接触まで約20秒。距離は180……」
     通信の途中、キメラのレーザー光が閃き、友軍機は大破した。

    「ちっ。解かってはいるんだが。手が空いている処は……ないか」
     何か方法はないかと、瀬戸口がスクリーンを睨んだその時。
     敵の撃破を告げる報告が次々と続く中、ミサイルを斉射したばかりの士魂号から通信が入った。

    「瀬戸口さん、支援に向かいます。こちらから見て距離と方角は?」
    「11時方向、距離は200!」

     舞がスクリーンに目を走らせた。
    「厚志。進行方向に密集地帯がある。5体。しかもスキュラの射程内だ」
     速水は、画面を見つめ短く答えた。
    「大丈夫。Gに気をつけて」

     一跳びした士魂号は、敵のただ中へと飛び降りた。
     キメラとスキュラの射程ぎりぎり、唯一の死角ポイントへと。
     幻獣が一斉に銃口を向けた、次の瞬間。敵の攻撃をひきつけ、絶妙のタイミングで射程を外すと、機体は再び跳躍し建物の屋上へ、そして廃ビルの谷間へと降り立つ。

     四体の幻獣を斃すのに、数分と時間はかからなかった。

     空から降ってきた死神が、地響きとともに手にした超硬度大太刀で幻獣を横薙ぎにした。
     一体。また一体と。
     腹から体液を流しもがくミノタウルスへ、容赦ない斬戟が叩き込まれる。さらに止めのひと突き。
     ずぶりと肉を断つ不快音とともに、内臓が飛び散った。

     放心状態のスカウトに、幻獣の体液に塗れた士魂号が向き直る……と。
     体格からしてまだ子供だろう、その兵士は白濁した液体の滴る刃を見つめ、震えながらへたり込んでしまった。
     一瞬、士魂号と少年の目が合った。

    (我らは敵ではないというのに)

     複雑な思いで一人ごちながら、舞は足元のキャビネットへと目をやった。
     安堵するよりはむしろ恐慌状態となっていたあの少年兵の姿を、彼はどう見ただろうか。
     オペレーターの声が響く。
    「敵は撤退をはじめた。掃討戦にうつる」

     通信機からは淡々とした声が聞こえてきた。
    「救護班。スカウトは救助。後を頼む。引き続き三番機は追撃に向かう」



     総撃破数34体。
     多大な戦果にも関わらず、帰投した士魂号から降りてきた二人の顔は無表情だった。
     滝川の顔を見て、速水はあやふやな笑顔を見せた。
    「はは……なんとかなったね」
    「いくら複座型でミサイル積んでるっていったって」

    (敵のド真ん中へ平気で突っ込むなんてよ。あんなことしてたら、命が幾つあっても足りゃしねェ)

     怒ったらいいのか、喜んだらいいのか。
     滝川がためらっているうちに、労いの言葉も、祝いの言葉も、無事を喜ぶ言葉も、すべての言葉を素通りするように、速水はちょっといいかなと、姿を消してしまった。



    「やれ、疲れたなと」

     汗を流そうとシャワー室に足を運んだ瀬戸口は、目的地の前で妙な光景を見た。シャワー室の前で、中に入ろうか入るまいかと行ったり来たりする姿。

    「ほう、先客かと思えば。芝村のお姫様が覗きか?」
     舞はぴたりと立ち止まると、顔を赤くして小さく怒鳴った。

    「ば、ばかをいうな!私は厚志のことが気になって──」
    「そうか。やっぱり中にいるのは、坊やか」

     瀬戸口は真顔になると、シャワー室と舞を見比べるようにした。
    「冗談はさておき。どうしたんだ。お前さんも疲れてるだろうに。ただ覗きに来たわけじゃないだろう?」
    「だから、覗きではないというのに!」
     物騒な目つきで瀬戸口を睨むと、舞はぷいと横を向いた。

    「様子を見にきただけだ。今日の戦闘は、おそらく厚志の限界を超えていたからな」
    「だろうな」

     先ほどの戦闘。背筋の凍るような士魂号の動きを思い返し、首肯する。
     芝村舞が懸念の表情というものを見せるのも、珍しいことだと思う一方で、なんだか気になった。

    「そなた、厚志の様子を見てきてくれぬか」
     舞が意を決したように言う。
    「私が行くのは……そそそ、そのう……色々と不都合があってだな」
    「不都合ね」

     普段の鉄面皮からは想像もつかない恥じらいように、からかいたい気分がなくもなかったが。
    「ええい、笑うな!行くのか行かないのか、はっきりするがよい!」

     そんな場合ではないと思い直し、瀬戸口は簡潔に了承した。
    「わかったよ。それじゃあ様子を見に行くとしようか」



     中に入ってみると、速水は既に服を着替え終わり、シャワー室の壁に湿った頭を持たせかけ座り込んでいた。
     一寸遅かったかなと、一瞬、不埒な考えが頭をよぎる。

    「よう、本日のヒーローさん」
    「瀬戸口さん?」
    「MVPおめでとさん、と言おうと思って来たんだが」
     どうもヒーローインタビューを受ける気分じゃあなさそうだな、と軽い調子で言ってみた。
     少年はにこりともせず、ぼんやりとしていた。

    「ん、どうした。変だぞお前。何か言いたいことがあるんじゃないのか。こんな処だが、言いたいことがあれば、このお兄さんが何でも聞いてあげよう」

     一分ほど、間があったろうか。
     しばらくして、速水は、ぽつりと言った。

    「悪いことしちゃったな」
    「何を?」
    「あのスカウト、まだ子供だった。あんな場面はきっと見ない方が良かった」
     目前で行われた、一片の容赦もない殺戮という悪夢。

     口の中で溜息をつく。考えても仕様がないことだろうに。
    「死ぬよりは、よほどマシだろう。戦場にいる以上、避けようがないことだしな。お前さんはよくやったよ。それを言うなら」

     坊やだって子供だろうに、といいかけてやめる。
     速水は、目の前にいる15歳の少年は子供であることを辞めているのだ。
     皆を守ると決めて士魂号に乗り込んだ、その日以来。

    「それに、勝ちはしたけど、味方の損害も大きかった。もうちょっと力があれば、なんとかできたかもしれないのに」
    「おい、それこそ考えていたら限がないぞ」

     瀬戸口は本格的に心配になってきた。
     本気で言っているとすれば由々しきことだ。
     どんなに望んでも、人にはできることに限りがある。

    「でも、誰も死なずに済めば、それに越したことはないでしょ」
    「そりゃそうだが」

     動く気がなさそうな姿に、瀬戸口は黙って横に腰を下ろす。
     沈黙の後、速水は何処か上の空で、他所事のような口調で話しはじめた。

    「僕は、最初は、戦うことも自分が死ぬのも、凄く怖かった」
    「──そうか」
    「それから……自分が変わっていくのが、だんだん怖くなった。殺すのに慣れすぎたのかな。幻獣を殺すのを楽しいと思うなんて、きっと普通じゃないですよね。──舞は、敵を撃破すれば喜ぶのは当然だろうと言ってくれたけど」

     それを聞いても、瀬戸口は慰めの言葉を持たない。
     平和主義者を自称する人間に言うべきことはなかった。
     たとえ相手の静けさに深刻な緊迫感を感じ、理由のない不安を覚えたとしても。

    「今は、何も感じない。戦場にいて、戦術画面の前にいると、僕という人間はなくなって、ひとつのことしか見えなくなるんです。次に幻獣がどう動くか、どこに死角があるか、どこが安全か、どう動けば一体でも多く幻獣を殺せるか、それだけがはっきりと解かる」
    「……」

    「僕は怖い。このまま戦い続けたら、自分がなくなっていくような気がして。でも、僕はもう戻れないし」
    「速水」
    「戻るつもりもないんです」

     少年の体に、後ろから腕が回される。
     濡れた髪や、シャツ越しの身体は冷たくなっていた。

    「相変わらず、抱き心地はいいな」
     肩越しに、覗き込む。
    「ん、抵抗しないのか?お兄さんは寂しいなあ」
    「瀬戸口さん」
    「赤くなってじたばたするお前って、可愛いかったんだがなあ。早くも大人になっちまったか」

     肩が、笑ったようだった。
     瀬戸口の穏やかな声が、何かに染み入る。

    「人の体って、柔らかくてあったかいだろ。まあ、野郎は固くて、ごっついけどな。俺は、こいつが……人の温もりって奴が好きだ。女の子でも子供でも、きっとブータだって。抱くのも抱かれるのもいいもんだ」

     腕に力がこもる。

    「言ったろ。最後まで見届けてやるって。お前が何者で、何処に行くのか」

     そう、こいつに必要なのは、きっと。


     ──泣けるようだったら、ここで泣いていいんだぜ、厚志──


     瞼が伏せられ、無言のまま肩がもたれかかってきた。
     急に重くなった身体を抱えると、瀬戸口は濡れた髪にタオルをかけ
     少年を背負うと立ち上がった。



    「なっ。大丈夫か厚志!そ、そなたこやつに何をしたのだ!!!」
     校庭に出るなり、二人が出てくるのをやきもきと待っていた少女の怒声が響く。
     瀬戸口は、やれやれと速水を担いだ肩をすくめ、大儀そうに嗜めた。
    「俺は言われた通り、様子を見に行っただけなんだぜ。それより医務室だ。緊張続きで、気力が結構、限界にきてたようだな」
    「やっぱりか……ばかめ」


     ポニーテールを揺らしながら、大股で先を行く小柄な背中。
     医務室へ向かう途中、それを見ながら、ふと思い当たる。

     華奢でありながら、微塵も脆弱さを感じさせない。
     思えば事の始まりは、目の前にあるこの姿にあったのではないか。

     瀬戸口は、その後背に話しかけた。

    「そうだな。こいつは芝村の望みどおりの男になったというわけだな。──満足か?」

     舞は振り向かない。
     歩調が緩まり、首の動きが空を見上げたようだった。

     暫の後、静かに答えがあった。

    「それも厚志が決めたことだ。私は何処までも……厚志と共に戦うだけだ」



     幾多の屍が散乱する戦場で、幻獣の体液と煤に塗れ、破壊神の如く君臨する、士魂号の姿を思い返す。

    「呼吸するように、幻獣を倒す化け物、か」

     洗練された舞踏を見るように、滑らかでよどみない、一部の隙も無駄もない動き。
     死への恐怖も憤りもなく、自動的に生み出される死。

    (そう遠いことではないな)
     ヒーローの誕生。 それはもはや予感ではない、確かな未来なのだと。

     瀬戸口は漠然と思う。
     そして、恐れを乗り越え、竜が現れるとき、
     世界を覆うのは死の恐怖か。


     それとも──。

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