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    Missing half 7



     どんなに辛く、哀しく、苦しい夢が、彼を苛んでいるのだろう。
     緋色の髪に縁どられた白い頬に、とめどなく涙が伝い落ちていく様を、ティアは茫然として見つめていた。
     柔らかなフォニムの気配。
     ときに、年相応の無防備な感情をさらけ出す、幼さの残る、頼りなげなこの面差しは。
     理由なんてない。何の根拠もないけれど、はっきりと分かる。

     震える指で、ティアはその濡れた頬に触れると、優しく涙を拭った。


     
     ──ルーク
     そこにいるのは、貴方なのね




     深い傷を負った彼の心を……
     少しでも慰めたくて、癒したいと思って口ずさんだはずの、譜歌なのに。







     急変した容体に、再び集中治療室へと移されたアッシュが意識を取り戻したのは、それから3日後のことだった。付き添っていたガイの眼に、安堵の光が射す。
     ゆっくりと辺りを見回し、どこにいるのか自分の置かれた状況を確かめると、アッシュはガイに向かって僅かに顔を傾げた。
     声が掠れる。

    「……あいつらは無事か?」
     一瞬遅れてその意味を察すると、ガイは微笑した。
    「ああ。全員無事、家に帰せたよ。お前とルークのおかげだ」

     何気に落とされた言葉に、翠と碧の視線が交錯する。
     アッシュは答えずに視線を逸らした。

    「ここは、ベルケンドか?」
     ガイは頷いた。
    「音素乖離を起こしかけてたんだ。途中で運よくタルタロスに拾われて、それでお前を音機関研究所に搬送した。もう7日になる」
    「そんなに……」
    「……! ちゃんと寝てろ。待ってろ、すぐに先生とジェイドを呼んでくるから」

     寝台から身を起こそうとする姿を見咎めたガイから、ぴしりと制止の声が飛ぶ。慌しく部屋を出ていくガイを見送ると、アッシュは全身の力を抜いた。倦怠感に軽い吐き気。天井がゆるく揺らめいている。今は大人しく身体を休めるしかなさそうだった。




     じたばたもがくミュウがジェイドの手で引きはがされる。案じ顔でアッシュを見つめるティアとガイもジェイドの声に外へ出るよう促され──
     静かになった病室の寝台の脇に近づくと、シュウ医師はアッシュに向き直った。

    「薬の副作用であまり気分はよくないと思いますが、なるべく負担にならないよう手短かに済ませますので。血中フォニムの測定と幾つかの検査をさせていただきますね」


     検査と診察を終えたシュウと入れ替わるようにしてやってきたジェイドに、アッシュは予期していたかのような眼差しを向けた。帰宅した父親が病気の子供の様子を聞くような調子で、穏やかにジェイドはアッシュに問いかけた。

    「ルークはどうしています?」
    「……やつはまだ眠っているようだ。フォニムは落ち着いてきている。じきに意識を取り戻すだろう」
    「と、はっきり言えるということは。──『貴方も』ルークを見つけたのですね」

     探るような翠の視線を、飄然と受けとめるジェイド。
     カマをかけようとする態度は気に入らないが、今は誘いに乗っておいてやる。
     アッシュは不機嫌そうに言った。
     
    「その口ぶりだと、レプリカはお前の前には姿を見せたようだな」
    「ええ、一度だけ。ちなみにガイやティアには私がルークと言葉を交わしたことは伏せてあります。彼に口止めされましたのでね」

     そういうわけですから。話すのであれば、彼らには貴方かルークの口から折をみて伝えてあげてくださいと。
     そう笑顔で言えば、ふいと顔が逸らされ、きつく眉根が寄せられた。

    「……往生際の悪い」

     アッシュの表情をうかがいつつ、ジェイドは付け加えた。
    「一人しか生きられないのなら残るべきなのはオリジナルの方だと。自分を早く切り捨てるよう貴方を説得してくれと、彼に懇願されましたよ」
    「……屑め。まだそんな寝言を言ってやがるのか」

     殺気にも似た怒りを含んだ眼差しがジェイドに向けられる。

    「あの馬鹿と何を話したのか、何があったか洗いざらい話してもらおうか」







     ジェイドとの情報交換を終えると、アッシュは静かに言った。
    「ローレライの剣をかしてくれないか」

     手渡された剣を受け取り、刀身を確かめるアッシュ。傷ひとつない。

    「──やはりな。夢でみたローレライの剣は実物じゃない」
     剣との繋がりを断ち切ろうとしたあいつの強い願望が「剣を折る」という行為として夢に具現化したのだろう。

     死霊使いは溜息をついた。
    「全く困った子ですね。諦めないと約束したその舌の根も乾かないうちに、そんな極端な自傷行動に走るとは。……まあ、その理由は一つしか考えられませんがね」

     渋い表情で口をつぐんだアッシュを眺めつつ、ジェイドは思う。
     一度死の帳をくぐった者の心情など、死んだことのない人間には推しはかるすべもない。
     いわんや、「死」の概念自体を希薄にしか感じられない自分には。
     死にたくもないのに死を強要され、自分の心にけじめをつけた。それが、望みもしないのに再び生を与えられ、今度は生を強要される。いや、生ある者としては生きたいと願うのがまっとうなのだろうが、その生が、別の生を代償として与えられるものであるならば──
     簡単に相手を殺して二度目の生を受け取れるわけもないだろう。まして(自覚がなかろうとも)相手を大切に想う者同士。純粋で潔癖な性質の持ち主であるこの二人なら、尚更のことだ。

     アッシュの声が固く響いた。

    「俺の乖離は続いているんだろう。時間はあとどれくらい残されているんだ?」

     あっさりとした問いかけに、あっさりとした答えが返る。

    「……1か月。このまま延命措置を受ければ、もって2か月といったところですか」
     もっとも、貴方が大人しく入院していてくれるとも思えませんがねと。諦めまじりに笑えば、ふんと小さく鼻が鳴らされた。
    「そうか」

     ローレライの剣を手に。アッシュは無言になると、何かに思いを巡らせていた。
     ふと、思い出すとジェイドは言った。

    「そういえば、ティアが来たら慰めてあげてください。よかれと願って口にした譜歌がかえって貴方がたの命を危うくしたとひどく気に病んでいましたから。結果をいえば、彼女の譜歌がなければ貴方とルークは目覚めることなく死んでいたかもしれませんしね」

     濃い翡翠の瞳がジェイドに頷きかけた。
     アッシュの思いのほか素直な反応に、おやと内心で首を傾げるジェイド。
    「ヴァンの妹には後で礼を言っておく。……それと頼みがあるジェイド」
    「なんでしょう? 貴方が私に頼み事とは珍しいですね」

     アッシュの強い眼差しがジェイドに注がれる。
     かつてなく、真剣に、真摯に。

    「コンタミネーションについて教えてほしい。なにもかも。全てを、だ」

     すっと。感情を消し去った死霊使いの貌になると、赤い譜眼が細められた。
     その言葉が示す、一つの可能性。

     あァ、その道を選ぼうとするのですか、貴方は。
     誰も成し遂げたことのない、成功の確証もない、1と0の狭間にある、2か0の道を。
     自分だけが助かるなら、もっと楽な道もあるでしょうに。
     ……無茶苦茶で強引な被験者を持ったルークに、少し同情しますよ。


     でも、貴方がたならやり遂げるかもしれません


     胡散臭い笑みを浮かべると、ジェイドは言った。
    「いいでしょう」
     どのくらい本気なのか、覚悟のほどを試してみましょうか。


     では、何からお話しすればよろしいですか、アッシュ?








     大きく息を吐くと、アッシュは胸の内に呼びかけた。


     いいかげん、目が覚めているんだろう?
     答えろ。諦めて出てこい、ルーク


     少しの沈黙の後。
     観念したように、応答があった。


     ──わかったよ
     いったい、何をやろうってんだ、アッシュ?







     進むべき道は端(はな)から決めている。


     戻るなら「二人で」だ。
     俺にとっては他の選択肢なぞ存在しない。
     オールドラントに再び目覚めて以来、漠然と脳内を巡っていた考えが、ようやく具体的な形をなして俺の胸に浮かび上がってきていた。


     俺の考えはシンプルだった。
     フォニムが流出しているというなら補充すればいい。
     レプリカの身体がないというなら、身体が見つかるまで時間を稼ぐしかない。
     それならやつのフォニムを、意識集合体のまま丸ごと俺の中に避難させておくことができれば──

     大爆発のとき、俺のフォニムは一時的にしてもあいつの中に取り込まれていた。ということは、俺たちには互いに互いのフォニムを吸収するだけの受け皿があるはず。自然に任せて放置すればフォニムを長く留めておけないというのなら、自分の意志で、自力でフォニムを制御するしかない。俺もあいつも超振動を使うのにある程度まではフォニムを扱える。
     条件は3つだ。
     フォニムの流出を止めること。レプリカを意識集合体のまま保つこと。俺とレプリカとの間にある回線を維持すること。……そのためには。


     コンタミネーションの完全制御。


     ジェイドと槍の関係を俺とレプリカに置き換えるイメージだが、眼鏡に言われるまでもなく、そいつがどんなに難しい前人未踏の荒業か分かっているつもりではあった。今のところ、コンタミネーションという現象を自在に操れる人間はジェイド以外には存在しない。ましてや、人と人、セブンスフォニム、大爆発終了後の被験者とレプリカ同士のコンタミネーションだ。ほかに実例などあるわけがない。何が起こるかも分からない。
     強引かもしれない。だが、俺にはできるという感触があった。今でも不完全ながらレプリカとのコンタミネーションはある程度制御できている。俺には譜術の修行で培った精神力があり、あいつには宝珠を取り込んで制御していた実績がある。座して音素乖離を待つ暇があるなら、俺たちにできることをやるべきだ。ローレライは使えない。できたとしてもアレは俺たちの完全同位体で迂闊に接触するのはむしろ危険だ。神も運も当てになどできない。

     全く無茶な事を考えますねと、死霊使いは呆れた表情を見せたが、不可能だとは言い切らなかった。不可能なら無理だとこいつは率直に言うだろう。その点、ジェイドは信用できる。

    「容易いことではありませんよ。セブンスフォニムは繊細ですからね。少しの気の乱れがフォニムの暴走を招きかねない。モースやカシムがどうなったか貴方の記憶にも残っているでしょう。下手をすれば些細な切欠で貴方の精神と身体が傷つき壊れます。貴方とルークの間で保たれているフォニムの均衡も致命的なまでに崩壊してしまう。そうなれば音素乖離を止める術はなくなって、かえって貴方がたの死期を早めることになりかねません。もっと言えば今この瞬間にもその危険はすでにあります……と、ここまで警告しても」

     止めても無駄なんでしょうねと、軽い調子でジェイドは小さく笑った。
     他に代案があるわけでもないですし。
     笑みが消えた。

    「繰り返しますが、貴方のやろうとしている試みは貴方一人では不可能です」

     貴方とルーク、どちらかの心に迷いがあれば必ず失敗します。二人が完全に同調して精神と力を制御しなければ成功はあり得ない。

    「とにかく、体内音素が安定するまでは訓練などもっての外です。今日一日は二人きりにしてあげますから、よく休んでルークともゆっくり話し合ってください」


     そう言い置いて眼鏡が出ていくのを見届けると、俺は呟いた。
    「ということだ。話はわかったか、ルーク」


     困惑を感じさせる思念が返されてきた。


     ──わりィ。俺、いまいちよく分かってない……と思う


     !!!


     この状況は不便だ。殴ってやろうにも相手は近すぎて俺の手の届かない場所にいる。
     



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