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    Missing half プロローグ



     遠く、滝の音だけが静かに聞こえてくる。
     蒼く、音もなく月の光が降り注ぐ世界で──

     天空に輝く星の大海を映したかのごとく、一面に広がる白い花を踏みしだきながら、ティアの譜歌によって生み出された精霊のように、彼は姿を現した。
     澄んだ夜風に流れる、緋色の長い髪。
     千切れた黒いマント、白い外套。後背の腰に吊るされた剣。
     懐かしい記憶を刺激する馴染み深いシルエットと面差しに、既視感と違和感を同時に抱きつつも、期待と恐れに足が自然と前に踏み出された。
     穏やかな声が優しくティアの心を打った。


     ──約束してたからな。

     
     聞き違えようもない、彼の声。痛いほどの愛しさに胸が高鳴る。
     消えないで。行かないで。もう離さない。
     もう二度と貴方を逃がさないんだから。


     ぱたぱたと涙を零しながら、腕が伸ばされる、その手が届く前に。
     彼はその場にくずおれ、とっさに支えたティアの胸に抱き込まれた。

     
     「ルーク!」


     歓喜の想いが一転して驚愕と不安に変わる。
     慌ててジェイドの腕から飛び立つミュウ。
     異変に気づいた仲間たちが駆け寄ってくる。
     

    「「「ルーク!」」」
    「ご主人さまァ!」
    「ジェイド、一体どうしたってんだ? ルークは大丈夫なのか?」

     落ち着き払った態度のままに、ゆっくりと歩み寄るとジェイドは静かに言った。

    「とりあえず、彼を連れて渓谷を出ましょう。話はそれからです。──それと、その前に」
     一呼吸の後、レンズ越しに表情を殺したままジェイドは言葉を続けた。
    「これから何があっても驚かないでください。彼がルークかどうかは、まだわかりませんから」

     仲間たちの間に、動揺が走る。

    「それはどういうこと? 彼は私との約束を覚えてる。だからこうして戻ってきてくれたのではないの?」
     震える声で、ティアが叫んだ。
     俯き加減にティアを見遣ったジェイドの目に、痛ましげな光が差した。

    「目覚めた彼と、言葉を交わしたとたんにショックを受けるよりは、先に心構えをしておいた方がまだマシでしょう。……この状況からすると、戻ってくるとすれば」

     それは、オリジナルの方の、彼のはずなんですよ。

     夜闇に、淡々と死霊使いの声が響いた。

    「つまり、今ここにいる彼はルークではなくアッシュである可能性が高いということです」









     ティアに、会えた。
     これで、もう心残りはない。
     後の事は頼んだぜ、アッシュ──


    「馬鹿野郎! 俺だって一度は死んでいるんだ。誰が生き返りたいなどとお前に頼んだ?」



     戻るなら、お前も、一緒に、





      




     ──暖かい。

     薪のはぜる音。焚き火の煙の匂いがする。
     目を開けると、視界の隅には、気遣わしげに医者みたいな面をしている眼鏡野郎の顔が見えた。
     どう考えても不自然に思える。
     どうしてこいつは、こんな優しげな、労わるような視線をこの俺に向けてくるんだ?
     ぼんやり上を見上げれば、黒々とした木立の間に、遠く星空が広がっていた。

    「意識が戻ったようですね。気分はどうですか?」
    「ここは……?」
    「タタル渓谷の入り口付近ですよ」

     
     いっとき、間があった。
     人差し指で眼鏡を治すと、静かな口調でジェイドは俺に問いかけてきた。


    「目を覚まされて早々に申しわけありませんが、確認しておきたいことがあります。……貴方はどちらのルークですか?」
     かちんときて反射的に噛みついた。
    「どっちだと? 何を寝ぼけたことを言ってやがる。お前は、俺と、てめえの仲間のレプリカの区別もつかなくなっちまったのか?」
    「……ということは、貴方はやはりアッシュなのですね」
    「それがどうした?」

     焚き火の向こう側へ目を向けると、あいつの仲間たちがなんとも言えない複雑な表情で俺を見ていた。次第に頭がはっきりとしてくる。

    (後は頼んだぜ、アッシュ)

     夢うつつに聞いたあいつの声を思い出して、不意に覚った。
     どうしてこうなったかは分からないが──
     俺は一度死んで、生き返ったのだ。
     恐らくは、あいつの命を代償にして。

     状況が飲み込めてくるうちに、落胆を隠し切れずに俯く女たちやガイの顔に、俺は居たたまれない心持ちになった。
     ここは俺の居場所じゃない。
     ここにいるべきなのは、こいつらが待っていたのは俺じゃないってのに。
     なぜ今、俺はここにいる?

     誰かの柔らかな指が俺の左手を絡め取ると、強く握り締めてきた。 
     左の方へ顔を向けると、ナタリアが泣きそうな顔で俺の顔を覗き込んでいた。 

    「お帰りなさい、アッシュ」
    「……ナタリア」

     少なくとも、俺の帰りを待っていてくれた人間が一人はいたわけだ。
     惨めな思いから救われたような気になると、金の髪に縁どられた頬に流れる涙を、俺はそっと右手で拭ってやった。

     俺の胸で声を押し殺して泣き続けるナタリアの嗚咽を聴くうちに、混乱して高ぶっていた脳内が冷えてくる。
     俺は、ネクロマンサーに問いかけた。


    「で。いったい何が起こったっていうんだ?」





    「──ビックバンか」
    「ええ。初期のうちは被験者から乖離した音素をレプリカが取り込む。そして被験者が死亡した後、最終的には被験者の音素がレプリカの音素に入れ代わって、被験者はレプリカの記憶を持った状態で蘇生します。理論上は。それでお聞きするのですが……貴方の内にルークの記憶は存在しますか?」

     やや緊張した面持ちで、ふと気づいたように目を伏せると、ジェイドは俺に頭を下げた。

    「……すみません。貴方がルーク・オリジナルなのは分かっていますが、彼のこともそう呼ばせていただきました」

     今更の話だ。こいつらにとって、ルークといえばあいつのことに決まっている。
     目を閉じれば、俺のものじゃない、やつの記憶が次々と蘇ってきた。


    「最後の質問の答えだが。奴の記憶は確かに俺の中にある」
    「──そうですか」

     沈黙が降りた。
     あいつが生きて戻るかもしれないと──
     俺の一言が、やつらの、その最後の望みを断ち切ってしまったことに俺は気づいた。
     
     馬鹿め。
     これほど大事に思われてたんなら、なんで石にしがみついてでも戻ろうとしなかった?
     込み上げてくる怒りと苛立ちを抑えつつ、俺は肩をすくめてみせた。

    「俺の事はアッシュと呼んでくれて構わない。元の名はあいつにくれてやったんだ。レプリカに音素を吸い取られて俺が死ぬという話までは聞いていたが、その話に続きがあったとはな。だからお前はレムの塔であいつを止めなかったのか?」
     ジェイドは頷いた。
    「そうです。レプリカであるルークが消えれば、貴方の身に起きていた音素の乖離現象は止まる。乖離現象が始まってしまっていたのなら、大爆発は止めようがありません。いずれにせよ最後に残るのはオリジナルの方です。ルークと貴方、どちらかが消え、どちらかが残らねばならないのなら、両方を失うよりはと。推測ですが、レムの塔でルークが消えずに済んだのは、貴方が彼の超振動に力を貸してくれたおかげで、体内のセブンスフォニムの消費が抑えられたからだと考えています」

     微かに哀しみを含んだ笑みが、俺に向けられた。

    「ルークが消え、貴方が残ったのは必然からです。どうか、自分を責めないでください。我々はルークの不在を悲しんではいますが、貴方の生還を喜んでいないわけではないのです」
     無言で腕を組んでいたガイが、目を上げると口を開いた。
    「ルークは、お前のことをずっと心配していた。絶対に死なせちゃならないんだってな。お前が生きて帰れたことを、あいつは誰よりも喜んでると思うぜ。俺たちもその点については同じだ」
     人形を担いだちっこいのが威勢よく言い始めた。
    「せっかく生きて帰れたんだからさ、それは素直に喜べばいいんだよ。バチカルのご両親だってきっと喜んで迎えてくださるって」
     ティアと言ったか、ヴァンの妹が頭を上げると、静かに笑みを浮かべて俺を見た。
    「ルークは貴方の事を大切に想っていたわ。だから、ルークの分まで生きて。ルークもきっとそれを望んでいるはずだわ」
    「いてほしいと思いますの!」
    「──ちょっと待て」

     俺はだんだんと腹が立ってきた。
     どうしてこいつらは、あいつが死んだものと決めてかかって俺に話をしてくるんだ?

    「あいつは消えちゃいない」

     ジェイドの赤い双眸が細められた。

    「それはどういう意味ですか? 覚悟を決めようとしている者の前で、気休めを言ってぬか喜びをさせるのは感心しませんよ」
     もどかしさに苛々する。自分の胸倉をつかむと、俺は首を横に振った。
    「そうじゃねえ。あいつはここにいる。俺には分かるんだ。あいつのフォニムは完全に消えちゃいない」

     俺は断言した。



    「俺の中に、あいつはまだ生きているんだ」








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