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    雲雀

     九角屋敷での朝餉時。
     突然、風祭が龍斗に言った。

    「お前、今日の予定は?」
     向かいの席で口の中の飯を飲み込み、のん気な調子で龍斗が応じる。
    「ん?何か俺に付き合って欲しい用でもあるのか、澳継?」
    「そんなんじゃねーよッ」

     心の内を悟られはしないかと、少年の頬が微かに赤らむ。
     気取られまいと、怒ったふうに横を向いた。
    「今日は、とりあえず畑の手伝いにでも行くつもりだけど?」
     不機嫌さを隠そうともしない彼に気分を害した様子もなく、龍斗は不思議そうに答えを返す。口に運ばれた沢庵が、ぱりぱりと音を立てた。

     全く、調子が狂う。これも頭痛の種の一つなのだ。怒ってくれた方がよほど少年の意にかなうというのに。
     彼が鬼哭村に来てから一月が経つ。
     この若者の諸事マイペースな鈍さに、風祭が気づくまでの、それは十分な時間だった。
     いらつく少年の隣では、桔梗が艶っぽい笑みをこぼす。

    「坊やと違って、龍斗は忙しいからねぇ。探索の仕事がなくとも、合間に手を貸して欲しがる者がたんといるのさ」
     少年にとっては絶対的存在である天戒が、龍斗に感謝の意を込めた瞳を向ける。
    「村人達の力になってくれて、いつもすまんな。村の長としても礼を言うぞ、龍斗」
     照れる龍斗と御屋形様を前に、一撃食らったかのような表情を見せる風祭。
     仲間の少年に目を遣りながら、九桐が苦笑ぎみにひとりごちる。
    「はははッ。頼まれずとも頼みになるのが、龍斗の良いところかもしれんな。お前も一寸は見習えよ」
     最後の台詞は、無論、風祭に向けられたものだ。
    「九桐、て前ェ~ッ!俺に喧嘩売ろうってのか~ッ!」

     悔しさ心頭の反撃も空しく、約一名を除き、和やかに朝餉の時は過ぎて行く。
     天戒はそんな面々に穏やかな視線を注いだ。
    「良い天気になりそうだな。これからは、こんな日も少なくなるやも知れぬ。たまには皆、ゆっくり体を休ませるといいだろう」

     ――やるとしたら、今日だな。

     頭領のねぎらいの言葉に謝意を表し、退出する仲間達を見送った後。
     かねてより心にあった計画をを実行すべく、早速、少年は行動を開始した。





     風祭澳継には近頃、気になる事がある。
     先月以来、鬼哭村に居ついてしまった一人の男。
     名を「緋勇龍斗」という。

     とにかく出会った最初の日から、目ざわりな奴だった。
     何が気に入らないかと問われれば、枚挙にいとまがなくなる。
     早くも尊敬する御屋形様の信頼を手中にし、これまた気に食わない御屋形様の一の部下である九桐には一目置かれ、己を坊や呼ばわりする桔梗には一人前の男として扱われ、年も上で背も高く、認めたくはないが客観的に見て男前も悪くはない。おまけに、ここへ住みついてから日も浅いというのに、彼よりも村人の信望が厚い。
     そして何より気に触るのが、その腕っぷしだった。闘りあって負ける気は金輪際ないが、例えば真剣勝負で勝てるかどうか。

     それは闘ってみないと分からない。

     武の道を志す者としての本能的カンが、相手の強さを警告していた。
     これだけは断じて譲れない。絶対に負けたくない。
     御屋形様にとって、最も役に立つ、腕の立つ配下は、この俺だッ。
     密かに自認し誇りに思っていたその存在意義が問い直されている。
     少年にとっては、そんな一大事危機に直面していたのだった。

     ところが、不思議なのだ。
     村に来てかれこれひと月になろうかともいうのに、彼は龍斗が武術の修練をしているのを見たことがない。
     いかな天才だろうとも、修練せずにあれだけ強くなれようはずもなく。
     どこかで秘密の修練でもしているのか?

    (今日こそはそれを突きとめてやる!)

     風祭澳継、本日の予定。
     本人にとって幸か不幸か。それは誰にも知られてはいなかった。





     それから、半日後。
     村人から頼まれた幾つかの仕事を片付け、龍斗は今、畑にいた。
     そして、畑を耕す彼から適度な間合いのある草むらには、尾行と見張りは退屈な仕事だという事実を、嫌ほど思い出す羽目になった一人の少年が隠れている。

     そんなことなら、いっそ一緒に畑仕事を手伝えば良いのだが、そういう発想は風祭には全くない。
     結局、虫に食われながらマムシと蛙に八つ当りし、頑固に退屈な見張りを続けている。もう止めよう止めようと思いながらも、標的の一挙一動に、すわ新たなる展開か!とずるずる続けてしまった彼であった。
     草むらの想いを知る故もなく、問題の人物は昼餉を持ってきた村人と和やかに言葉を交わしていた。

    「龍斗さん、いつもすまないね」
    「そんなこと、ないです。俺も食べさせてもらってるんだし。働かざる者は食うべからずって言いますからね」
     聞いている者の存在を知っての言ではないのだが、ごく潰しだと言われているようで、なんとなく腹が立つ。腹が減るのも手伝って、少年の機嫌はすこぶる最悪状態であった。

    「ちッ。屋敷の厨から何かかっぱらって来るんだったなァ」
     爪をかじりながら、ぼやく風祭。
     こんなつまらない事は止めにして、昼餉を食べに屋敷へ戻ろうか。
     空きっ腹を抱えて、草葉の陰で葛藤している者の存在を知ってか知らずか。
    「それじゃ、も少し頑張るか」
     相変わらずの悠長さをかもし出しながら、龍斗は再び畑を耕しはじめ、そんな彼を視界におさめた風祭は、溜息とともに寝転がった。

    「龍斗のヤツ、一体いつまでこんなことしてやがるんだ?今日は修練しない気なのか」
     一向に進展しない状況にゲンナリした少年が、今度こそ止めて帰ろうとほぞを固めた頃。
    「お前、こんな所で何をしてる?」
     背後から突然声をかけられ、風祭は文字通り飛び上がった。
     振り返れば、不審気な色をあらわにし、槍を手にした一人の男。見慣れた僧形がそこにあった。
     気配に気づかないとは不覚だった、との想いが脳裏を走る。

    「九桐じゃねーか」
    「先程から見ていれば。龍斗をつけ回して、お前、何をやってるんだ?」
     悪戯が見つかったような後ろめたさと恥ずかしさに、絶句する少年。
     返答に言い訳がましい響きが混じるのは、いかんともし難い。

    「い、いや。なんだか、気になっててよ」
    「何がだ?」
     内心の動揺をなんとか鎮め、少年は真顔で問う。
    「お前、龍斗のヤツが修練してるとこ、見たことあるか?」
     九桐の顔に、得心したげな悪戯っぽい笑みが浮かんだ。
    「なんだ。競争相手の偵察ってわけか?はははッ。さすがのお前も、龍斗の強さに無関心ではいられなかったようだな」
    「ち、違うって!そんなんじゃねーよッ」

     顔を赤らめて必死で否定する少年の姿は、余計に相手の失笑を誘った。
    「おいおい、変なところで意地を張るなよ。相手の強さを認めるのも、武術家の度量というものだぞ。敵を知り、己を知れば、ってな」
    「五月蝿いッ!」

     龍斗に聞こえるのをはばかって、小声で怒鳴る風祭。
     仕様がないという風に、破戒僧はかついだ槍を下ろし、次いで腰を下ろした。話しやすいように、草むらに隠れる少年と同じ目線の姿勢をとる。
    「ふむ。お前にはまだ解かってないようだな。道場や修業地でするものだけが修練とは限らないということが」
    「ど、どういうことだよ?」
     僧侶の言葉に相手は怪訝な顔をする。

    「例えばだ」
     九桐は畑仕事に勤しむ龍斗に視線を移す。
    「あの龍斗の姿を見て、お前はどう思う?」
    「え?どうって……畑、耕してるんじゃないのか?他に何があるってんだよ」

     喧嘩腰の少年の答えに、彼は首を振り、盛大に溜息を吐く。
    「これだからな。いいか、龍斗は時々鍬を片手で持っているだろう?一畝ごとに持ち替えて、丁寧に耕している。移動するにも体の重心や足さばきに気を配っている。ああやってだ、手首や足腰を鍛え、体捌きの基となる体をつくっているのだ」
    「何だってェ!」

     少年の眼が驚愕に見開かれる。動揺しつつ九桐と龍斗を見比べた。
    「あ、あれが修練だっていうのかよッ」
    「他にもあるぞ」
     神妙な口調で、九桐はさらに話を進める。

    「龍斗は山へ薬草摘みにもよく行くが。あれは山を歩きながら、持久力や観の眼を養う修練をしているのだ。山の獣の気配に心を研ぎ澄ませ、己の存在を気取られぬように気配を殺すといった具合にだな」
    「う……」
    「屋敷での蒔割りも、草刈りも、風呂焚きも、庭掃除も、龍斗にとっては全てが修練の一環なのだ。お前は双羅山でしかしていないようだが」
     九桐はにやにやしながら、止めの台詞を口にする。
    「ま、修練場で丸太を蹴ってるだけが、修練ではないってことだな」
    「う……く、くそう……」

     放心していた少年の顔が、悔しさで真っ赤になり、震える拳が力一杯握り締められる。
     様子を窺いながら、立ち上がり半身の姿勢になった九桐は、その場を外す素振りを見せる。
     敵手の姿に釘づけとなった風祭を見下ろした。
    「まぁ、お前も龍斗に負けたくなかったら、精進しろよ」
     笑いを含んだ去り際の破戒僧の言葉。
     それは相手の耳に届いたかどうか―――。
     
     一方、草むらのそんなやり取りを他所に。
     まんべんなく耕された畝畝の前で、話題の主は満足げに伸びをしていた。
    「はー。さてと。ひと区切り着いたことだし。ひと休みするか」

     木陰に入り、手拭いで額の汗を拭いながら、龍斗は胡座をかいて木の幹に背中をもたせかけた。
     爽やかな微風を肌に感じ、倦怠感に身を任せ、そのままの姿勢で眼を瞑る。
     春もたけなわ。鳥がさえずり、芳しい花と草木の香が風に満ちる。
     陽の温もりに包まれ、木々のざわめきを子守唄に――いつしか心地よい睡魔に誘われた龍斗は、うたた寝をしはじめていた。

     その傍の草むらには、そんな龍斗の後姿を食い付くように見つめる風祭がいる。
    「くそッ。今度は精神修養か。やるぜ、龍斗。俺も負けちゃいられねェ!」

     もはや意味を為さなくなった尾行と見張りに、我慢も限界に達した少年は、飛びあがるように立ち上がり、一目散に双羅山へ向かって駆け出した。
    「見てやがれ~ッ!お前を倒すのは、この俺なんだからな~ッ!!!」

     慌しく去って行く少年がいた、その程近く。
     そこには、呆れ顔で頭をさする九桐がいた。
     風祭の姿が消えた方角と、何も知らずに昼寝を楽しむ龍斗を交互に見やる。

    「やれやれ、少しは龍斗を見習って、村の仕事にも精を出すかと思ったが。ちと外れだったか」
     袈裟姿の肩が震えた。吹き出したい衝動をこらえながら、己の胸内が爽快な気で満たされているのを感じる。不思議だった。こんな開放的な気分になるのは、彼には久方ぶりのことだった。
    「ま、あの方が澳継らしいがな」

     笑いを治め、舟を漕ぎ出した龍斗を一瞥し、頭を振る。
     色濃くなりゆく新緑の中、那智滝の方へと、破戒僧は足を踏み出した。


     雲雀さえずる、晴やかな皐月空の下。
     明日の天気は知らずとも。

     今、鬼哭村は、平和そのものの光で満たされていた。


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