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    花影に微睡む 1

        
     柔らかな風に枝を揺らしながら、花は夢を見ていた──





    「うっわー!きれーだなァ」

     元は小さな弓道場だったらしい、陽の光が明るく差し込む静かな庭先で、ヒカルは満開となった桜の花を見上げていた。

     ここは、塔矢家の知人宅である。
     京都で開かれたイベントが終わった後、花見に行こうとアキラに連れてこられた由緒ありげな古い民家だ。
    「東京に戻ればキミのことだ。すぐ忙しくするんだろう?一日くらいゆっくりするのも悪くないんじゃないか」
     家主は御年70才も過ぎた老夫婦で、主と同じ穏やかな空気が感じられるその家は、外の喧騒から隔絶された別世界のような、お寺や御社とも似た清涼な雰囲気をかもし出していた。

    「ご主人は父の昔からの友人で、この家にはボクも子供の頃から時々お世話になっているんだ。見事な桜だろう?」
    「うん。花見ってさー、人混みの中でわいわい見るもんだと思ってたけど、こんな穴場もあるんだね。これだけの桜を一人占めできるなんて、すごいや」
     半ば強引に誘った事を気にしていたのか、幾分ほっとした表情でアキラは微笑した。
    「進藤も気に入ってくれたようで良かった。……じゃあ、ボクはちょっと藤原さんと話をしてくるから。ここで少し待っててくれ」
    「ん。──桜でも見ながらのんびりしてるよ」

     藤原さんか……他所んちだっていうのに何時になく自然とくつろげるのは、アイツと同じ名前の家だからかもしれない。
     奥へと戻っていくアキラを見送ると、誰もいないのをこれ幸いとヒカルは縁側に仰向けになって寝転んだ。
     疲れぎみでささくれ立っていた心が、じんわりと癒されていくのを感じる。
     陽に照らされた木の温もり。木の香り。じいちゃんの家が思い出される。頬を掠める風は、爽やかな花の香りで一杯だ。
    (日向ぼっこしながら寝るには最高の場所だよなー。すっげー気持ちいい……)

     手足を伸ばして床板の感触を楽しみながら、相変わらず気の回る奴だなあと考える。
     塔矢だって忙しいだろうに。わざわざ時間を作って(おそらくは計画的に)ここへ引っ張ってきたのは、ストレスと精神的疲労がピークに差し掛かっているヒカルに少しでも息抜きさせようと思ったのだろう。
     オレに気遣いなんていらねえのに。つーか、ライバルに塩送っていいのか。まあ、ひょっとしたら塔矢も単に気晴らしが欲しかっただけなのかもしれないが。

     破竹の勢いで一時は4冠を達成したヒカルだったが、その後、立て続けに倉田、緒方、塔矢に破れて3冠の防衛失敗。本因坊だけはなんとか死守したとはいえ、巷では、敗退の原因は棋力というよりは気力の差、コンディションを維持できなかったヒカル自身の自己管理能力のなさにあると評されている。
    (……はあ。納得いかねえなァ。オレが進藤に勝ったっていうよりは、進藤が勝手にコケたというべきなんだろうな。ったく。ちゃんとメシ食わねえから終盤戦までもたねえんだよ)
    (この軟弱者め。必ずまた上がって来い、進藤。今度はスッキリと勝ってやる。タイトルホルダーのプライドがどういうものか、きっちりとお前に見せてやるぜ)
    (勝敗については結果が全てだ。だけど……満足できる碁じゃなかった。ボクたちはもっと高みを目指せるはずだ。そうだろう、進藤?)
     ヒカルに勝利しタイトルを取ったというのに、喜ぶというよりはむしろ不満気だった三人の顔に痛感する。お前はもっと打てるはずだ、期待を裏切るなと。あんな不完全燃焼な対局にしちまったのは全部オレのせいだ。

     体力つけないとなァ……

     薄目を開けて、花の咲き誇る庭に目をやる。たぶん、塔矢は、束の間に現れ出でるこの美しい眺めを、ヒカルに見せたかったのだろう。

    「よっ、と」

     草履を履いて、庭に降りる。
     桜木の影に寄り添い、梢を見上げた。垣間見える蒼穹を背景に、花房が微風に揺れている。

     アイツにも、見せたかったなァ。
     オレには風流とかよくわかんねーけど。アイツは花とかこーゆーの好きだったろうから。

    (ヒカル~!ほらほら、見てくださいっ!花がきれいに咲いていますよっ)

     前触れもなく思い出される、満開の笑顔。
     何年経っても色褪せない遣る瀬ない想いが、鮮やかに胸に蘇った。
     偶然に、アイツを想い起こさせる名を聞いたせいか?それとも、この空間の持つ浮世離れした不思議な雰囲気のせいだろうか?
     どうしてだろう。今日は、いつになくアイツの気配が身近に感じられる。

     佐為……お前に逢いたい。もう一度、お前に逢って───

     ごう、と。風が吹いた。
     くらりと、一瞬、意識が遠くなる。脳裏に薄紅色の風が渦巻いた。地に足がつかない。
     花に包まれ、花嵐に飛ばされそうになる感覚。



    「誰です?……貴方は何者ですか?」



     ──目を開けると。
     ヒカルの前には、白い狩衣をまとって涼やかに佇む、懐かしい人影があった。



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