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    八ツ原ダンジョン(前編)

     

     ピクニック日和の青空の下。
     鬱蒼とした木立に囲まれたこぢんまりとした草地は、酒盛りをする妖で賑わっていた。
     《猿面から夏目様をお助けして恩を売ろう作戦》成功の打ち上げという名目ではじまった八ツ原での飲み会は、いつしか犬の会+α総出の大所帯な集まりとなっていた。
     酒の肴はもちろん救出作戦のヒロイン、八ツ原最高級のデザート「夏目様」である。

     見てよし、食べてよし(絶対美味しいと好い匂いでわかる)、柔らかな木漏れ日のような気は香しく、妖力の強さと煌めきは、ともすれば神と見紛うばかり。
     神ならば直に見ることも足元に寄ることもできないが、人の子である夏目様ならば、祟られる心配もなく、気軽に声もかけられちゃう。
     悪戯だってし放題。
     かまって欲しくて遊び心に任せてつついてみれば、いちいち驚いたり逃げたり困ったり寝込んだりと、いつまでも妖慣れしない反応が返ってくるのが、面白くてたまらないのだ。

    「窓から挨拶したときのさー、夏目様のビクついた顔にしびれちゃって、止められないの」
    「夏目様が飲んでいらしたイチゴ牛乳とお○しいお茶のパック! 揃いで大事に持ってるんです。ほらストローもついてます」
    「斑様の目を盗んで、天井から夏目様の寝姿を拝んできただよ。寝乱れ具合がもう最っ高でさあ……うひひひひ(はぁと)」

     「いかに夏目様を××したか」「斑様を出し抜いて▽▽したか」の自慢話で盛り上がる下級妖怪たち。

     それと距離を置いた大きなブナの木の下では、犬の会主要メンバーがちょっぴり深刻な相談をしていた。
     ちなみに、今日は真面目に夏目に張り付いているのか、常ならば意地汚くタダ酒をねだりに押しかける三色猫は姿をみせていない。

    「それにしても、相変わらず夏目は目が離せないねえ」
     と、ヒノエ。

    「夏目様ほどの妖力(大妖級)があれば、猿面程度の相手なら、ちょいちょいと片づけられそうにも思うのですがね」
     と、ヒノエにお酌しながら、つるつる中級A。

    「いける、いける~」
     と、扇子とおちょこを手に、赤ら顔で陽気に相槌を打つ、牛顔中級B。

    「夏目は喧嘩や勝負事を好まないしね。襲われても、相手を凹るより先に、反射的に身体が凹んじまう。ま、上手く逃げおおせればそれで事は済むんだけどさ……あたしらの酒もちゃんと残しといておくれよ、三篠」
     蛙たちを頭に乗せ、大瓶ごと直に酒をこぽこぽ傾ける馬妖怪に、ヒノエは流し目をくれると、くいと杯をあおる。
     一升の酒をゴブりと飲み込むと、三篠はおもむろに口を開いた。

    「【問題は、我が身に害を為す相手であっても傷つけるのを厭う、夏目殿の心の在り様だな。妖には無用な気遣いよ。今や、夏目殿の噂は遠方まで広がりつつある。斑とていつも傍にいるわけではない。友人帳を手放さぬのなら、それなり身を守る術を身につけねば、人の子の身では長くはもたぬだろう】」
    「もやしで土筆《つくし》で白アスパラだしねえ」

     キセルを咥え、嘆息するヒノエ。
    「友人帳を持っていたって、夏目が名を返す以外で使うことはないんだ。全く難儀な事だよ」

     暫しの沈黙。
     それぞれ思惑はズレたところにあるが、夏目を死なせては勿体ないという一点において、全員の想いは一致していた。

    「夏目、強くならないと死んじゃうの?」
     と、不安げにヒノエを見上げる子狐。

    「んー。せめて、襲われたときは、容赦せず本気で殴り倒すくらいの心構えは持たないとね。夏目は無意識のうちに手加減しているんだよ。傷つけるのが怖くてさ」
     もやしのくせに百年早い。斑には遠慮なく拳骨かませるのにどうして迷うかね、としかめ面をするヒノエ。

     強くて優しい先生なら、手加減抜きで殴っても大丈夫!
     信じてるよニャンコ先生(はぁと)

     ──と、夏目が思っているかは、定かではない。

    「じゃあ、夏目も、もっと強くなる修行したらいいのかなあ」
     子狐は風呂敷包みからごぞごそと本を取り出した。
     「あしたのジョージ」のほかに、一冊増えている。

    「修行? なんだね、その本は?」
     嬉しそうに、子狐の瞳が輝いた。ふさふさしっぽが、ゆらゆら左右に揺れる。

    「なにかね、強くなる修行の方法が書いてある本みたいなの。洞窟とかー、迷路みたいなとことかー、いろんな場所で敵をやっつけていくと、どんどん強くなっていくみたいなの」

    「ああ、それは《げーむ》という人の遊びの仕方が書いてある本、と思うであります」
     本を覗き込み、物知り顔でちょびが言う。

    「なになに、人の子の遊びですとな?」
    「どんな遊びなのかい?」
    「えーと。歩いてると、怖い敵がくるの。それを倒すと、《やくそう》とか何かいいものが落ちてるの」
    「「「ふむ、ふむ、ふむ」」」
    「どんどん進んでいくと、だんだん出てくる敵が強くなっていって、最後にすっご~く、ものすっご~く! 強くて怖い敵がいて、それをやっつけたら、姫君を助けられるの」

     なんだか、最近似たような出来事があった気がすると、顔を見合わせる一同。
     某妖祓い屋一門の当主がラスボスとなって、東方の森へ遠征した面子の脳裏に一斉に浮かんだ。
     ちょびが突っ込む。

    「夏目殿の日常と、そう大差ない気がするのであります。その割に、あの方はたいして強くならないのであります」
    「どうしてかなあ?」
    「その《げーむ》とやらに当てはめると、夏目が姫君役になるからじゃないかい?」

     想像してみた。

     『ニャンコ先生~~(姫ドレスを翻して振り向く夏目) .。.:*・゜゚・*:.。*:』
     『なーつめぇ~~(王子マント翻して駆けよるニャンコ先生) ゚・*:.。・*:.。.』


    「先ほどのお話のように、友人帳狙いの輩に襲われても、夏目様は戦うより逃げますしな」
    「逃げますなあ~」
    「逃げてばかりでは、強くならないのであります」
    「【用心棒が過保護だからだろう】」
    「なんだかんだ言って、斑は夏目に甘いしねえ」

     ヒノエは、キセルから色っぽく唇を離し、ふうっと煙を吐いた。
    「で? その遊びをやるには、何が要るんだい?」

     とりあえず、やられ役の妖が沢山。

     序盤は、下級どもにやらせればよし。
     中盤は、中級どもにやらせればよし。

    「《らすぼす》とやらは、どうするであります?」
    「【私に任せてもらおうか。夏目殿と手合せしてみるのも悪くない】」
     耳元の蛙を下ろしながら、恐ろしげな笑みを浮かべる三篠。
    「【次はなんだ?】」

     ヤられたときに落とすモノ。

    「癒しのやくそうなら、やってもいいよ」
     と、ヒノエ。
    「えーと、力が強くなるお薬とかー」
    「霊峰におわす大妖様方ならお持ちでないですかね。……もっとも分けてくださるかどうか」
    「死んでも生き返るお薬とかー」

     目が点になる。

    「……人の子の遊びとは高くつくね」
    「【どこぞの神からでも、運よく霊水の類が手にはいれば代用できるだろう】」
    「それと、戦うときの道具がいるみたいなの」
    「夏目様が使うなら、拳闘用の武器か魔封じなにがし系の呪具でしょうな。鏡か何か見つくろってみましょう」
    「場所はどうします?」
    「洞窟とか、迷宮とか、旧校舎とかー……いろいろあるみたい」
    「それは妖側の空き地をどこか適当に使えばいいさ」

     なんだかいけそうだと、視線が交わされる。
     ここまで考えてしまったら、あとは……

    「【面白そうだ。夏目殿に少しは強くなっていただくのに、その《げーむ》とやらをしてみるとするか。暇つぶしにも丁度よかろう】」
    「夏目様が強くなって、我らも楽しいとは、一石二鳥!」
    「にちょう、にちょう~」
    「人の子の遊びの修行なら、弱っちい夏目でも大丈夫だろ」
    「つきあってもよいのであります」
    「夏目、びっくりするね!」

     不気味に笑う馬の頭。
    「【残る問題は、斑だ。邪魔に入られると、夏目殿の修行にならんなあ】」
    「斑なら、上物の酒の十升もありゃ、気を引いておけるんじゃない?」
    「しかし、斑様のお姿がないと、夏目様が不審に思われるのでは?」
    「おもう、おもう」
    「【いっそ、捕われた斑を救いに行くということにでもしておくか。誰ぞを助けるためと理由をつけた方が、夏目殿を《げーむ》に誘い込みやすそうだ】」

     『ニャンコ先生~~(王子マントを翻して両手を広げる夏目) .。.:*・゜゚・*:.。*:』
     『なーつめぇ~~(白レースを翻して胸に飛び込むニャンコ先生)゚・*:.。・*:.。.』

    「ブサネコが……姫君役、ですとな?」
    「酔いどれヘチャムクレを助けるため……でありますか」
    「いまいちそそられないねえ」

     テンションが、げんなり地球の裏側まで急降下する。
     馬頭が巡らされた。

    「【それならそこの狐にするか。人間を捕まえてくるのも面倒だ。夏目殿なら、人でなく、妖でも十分エサとして使えるだろう】」
    「夏目が、私を助けるために戦ってくれるの!」
     瞳をきらきらさせて、夢トリップしちゃう子狐。

     『夏目~~(白い帽子に白ワンピースを翻して夏目の胸に飛び込む子狐).。.:*・゜゚・*:.。*:』

     はたと、我にかえる。
    「ち、ちがーう! 夏目に守ってもらうんじゃなくて、私が夏目を守るんだって!」
    「まあ、夏目を釣るには、適任のようだがね」
     じたばた暴れる子狐を呆れ顔で見遣ると、ヒノエはまた煙を吐いた。







     うっかりしていた。
     夏目様は、とことん阿呆なお方であった。


     夏目には黙っていた方が楽しいだろうと、《げーむ》であることは伏せて臨んだ本番。

    「なんだって! ニャンコ先生が?」

     深くショックを受け血の気が引いてしまった夏目を前にしながら、つるつると牛顔は、罪悪感という名の針のムシロの上に鎮座していた。 
     夏目様に、紙より白いお顔をさせるつもりはなかった……ていうか。

    (斑様がどうかしたくらいでこんなに動揺されるとは、想定外ですぞ)

     『最近、八ツ原に現れた性質の悪い妖に、ブサ猫がやられ(子狐がイヤだとがんばったため、結局、助けられる姫君役は斑に落ち着いた)、妖の巣に連れ去られて生死不明』という(《げーむ》用のでっちあげ)話を、夏目は、一点の疑いもなく、真に受けてしまったのだ。

    「折悪しくも、斑様は泥酔しておられまして、ハイ」
    「なにやってんだよ、先生……」

     高貴で偉大な私がそんな失態を犯すとでも思うのか簡単に騙されおってこの大ド阿呆めがあ~~~ッッ!!!!
     当妖の斑が聞いていれば、雷怒髪もののやりとりである。

    「えーと、それでそのう、斑様をお助けするのに、夏目様のお力を……(もじもじして棒読み)」
    「おちから、おちから(もじもじして小声)」
    「わかった。どこにいけばいいんだ、中級?」
    「夏目様……」
     
     澄んだ真剣な眼差しで、即答する夏目。
     用心棒もなく、しかも向かう場所は人の世ならぬ妖の世界。
     不安でないはずがなかろうに、青ざめながらも決然とした表情で助けにいくと告げる夏目に、妖らしくもなく胸キュンしながら……。
     あらぬ方へと視線がさまよう。

     (思惑通りだけど)マズイ。本気で信じちゃってる。
     遊びとバレたら、やっぱり本気の拳骨デスヨネー。
     斑様にも、バレたらマジ食われる……いや、その時はその時。
     関係した妖全て、一蓮托生よ。

     ビシィと空を指さしポーズをきめる中級s(見ている夏目には意味不明)。

    (これは夏目様のためを思っての遊びなのだ! 心にも角をつけて、ここは通すのだ!)
    (とおす、とおす!)

     八ツ原に向かって走る、一人と二妖怪。
     走りながら、つるつるが状況を説明する。夏目の背後では、牛顔がササッとアンチョコを広げていた。

    「えーこの先は、其奴の巣窟になってまして、巣の最も深き処に斑様は捕り込まれておりまする。姿を見てはいませぬが、なかなかの大物らしく。子分になった妖が巣を守っており、奴らを全て退けないと、最奥にはたどり着けないようですな」

     口元を引き結び、憂い顔となる夏目。
    「妖と……戦わなくちゃ、ならないのか」

     ここは、よいしょだ、よいしょしかないい~~ッ!!!

    「だーいじょうぶ! 夏目様は妖力の強さだけなら斑様にもひけはとりませぬ。夏目様が本気を出されたら、多少の妖はその黄金の拳! 右ストレートの前に必ずやひれ伏しましょうぞ。とにかく、自信を持ってくだされ」
    「いっける、いっける~」
    「そう、なのか?」

     その、お強いはずの斑様がやられている設定なので、「強いぞなっつめっさま~!」と説得する台詞としては穴があるが、励ましは勢いである。

     が。
     励ましはストライクゾーンから逸れてしまったようで。
     怯えではなく、逡巡を見せる夏目の顔を口を開けて見ていた中級二匹は、そのうち理由に思い当たるとあっさり言った。

    「以前から思っておりましたが、食われる前に食うのを、夏目様は何ゆえ躊躇われるのです?食われてしまってはおしまいですぞ。此度は、夏目様が食われましたら、斑様もおしまいですしなあ」
    「おしまい、おしまい」
    「……うん」

     小首を傾げて、にっこり指立て。

    「心配されずとも、多少の妖は夏目様のエノキパンチ程度で消えるほど弱っちくございません。ガンガンいくのでちょうどなくらいで」
    「いっけ、いっけ、なっつめっさま~!!」
     夏目は、ため息をついた。
    「……さっきと、言ってることが違うぞ、中級」


     ざわざわと揺れる樹々を抜けたところで、不意に空気が変わったのに気づく。いつしか境を越え、妖側の空間に、夏目は入り込んでいた。

    「人の匂いがすると、余計な妖が寄ってきますからな。夏目様、《面》と《衣》をどうぞ」
    「着ってくださ~い」
    「……こっちの着物、女物じゃないか? しかも、スカスカして動きにくそうだぞ」
    「それはヒノエ様が厄避けの呪いをかけてくださった衣です。きっと、お似合いですよ」
    「おれ、男なんだけど……」

     渡された白い浴衣に袖を通して『目』と書かれた《面》で顔を隠すと、緊張しながら紐をキュッと結ぶ夏目。少々ためらった後、女物の薄衣は、頭からかぶった。……すると。見えそうで見えない、裾から垣間見える白い足や薄布越しに透けてみえる細い体がいっそう妖の目を惹く優艶さを醸し出す始末となったが、目立つまいとして却って逆効果になったことに当の夏目は気づかなかった。

    (ニャンコ先生。後で文句を言うかもしれないけど、用心棒のくせに変なのに捕まる先生が悪いんだからな)

     拳を握りしめ、息を吐く。
     目を閉じて、大切な丸ぽちゃ猫の姿を胸に夏目は覚悟を決めた。


    「あ、そうそう。夏目様、《やくそう》の袋をお持ちくだされ。噛めば疲れがとれますぞ」
    「ありがとう」
    「ヒョウタンの中身は、《いのちの水》です。飲めば何もかも吹っ切れて、《オレ最強!私は誰の挑戦も受ける!》てな感じの夏目様になれますぞ。強い妖を相手にするときに飲んでくだされ」
    「……酒じゃないだろうな?」
    「酒です」
    「……おれは未成年だぞ」
    「こちらはお鍋のふたです。身を守るのにお使いくだされ」
    「……妙に、用意がよくないか? つーか、鍋のふたなんか、おれにどうしろっていうんだよ?」
    「いえ、狐めが、はじめは鍋のふたを持つものだと言っておりましたので」
    「は?」
    「呪のかかった布です。拳に巻いておけば威力倍増ですぞ」
    「わかった」
    「さあさ、こちらへお進みなされ」
    「こっち、こっち」


     中級に誘われ足を踏み込んだ拓けた空き地の真ん中に、大きな穴が開いていた。膝をついて穴を覗き込む夏目。
     どれだけの深さか見当もつかない。

    「ここか? 中級?」


     その言葉が終わる間もなく。


     どんっ!


     背中に強い衝撃を感じると同時に。
     真っ暗な穴に突き飛ばされ、落ちて落ちて──
     どこまで続くか分からない闇の中へと、止めようもなく、夏目の身体は落ちていった。










     その様子を、長く大きな影が見ていた。





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