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    虚空に光は広がり満ちて 6

     

     射精後の余韻に息を吐きながら、レドはコミュニケーターに目をやった。

    「………終わったのか、チェインバー?」
    「貴官の精子の採取に成功。液体窒素によるマイナス196℃の環境下において凍結保存処置を完了した」
    「……銀河同盟に帰還できるか分からないんだぞ?こんなことをして意味なんかあるのか?」
    「貴官は、限定市民権を得た時点で、生存し繁殖するに相応しい優秀な人類であると認定されている。貴官の遺伝子は貴重なサンプルであり、その生殖細胞の確保は貴官並びに当機に課せられた義務となっている」
    「……俺がこうなるってどうして教えてくれなかった?お前にはわかってたんだろう?」

     中途半端に残る欲望に当惑しながら、レドは不貞腐れた。根元的な意味でチェインバーには心も身体も知り尽くされている。どうあがこうと、結局のところチェインバーにボタン一つでいいようにされてしまう自分が面白くなかった。

    「貴官には生殖行為の経験がなく、常に戦時下にあって肉体的に性欲を制限されてきたために自慰行為の経験もない。よって、射精を促すには貴官の中枢神経を直接刺激するのが効率的と判断した」

     初めに全身を貫いた衝撃がニューロプラスパワードの発動時と似ていたのは、チェインバーが中枢神経に接触してきたせいか。
     ……その後に与えられたものは全く違うが。
     俺に自分でさせるより時間の節約になったんだろうなと、レドは心の中で呟いた。
     
    「生殖の自由っていうのはこれをするのが自由になるってことか。面倒なものだな。精子を採取して気持ちよくなるためだけならお前に命令した方が手っ取り早いだろう。わざわざアヴァロンに行ってまでする必要はないんじゃないか?」
    「貴官の認識には誤りがある。人の正常な生殖機能を阻害しないために当機が行うことのできるパイロットへの性的行為の範囲は制限されている。精子採取を目的とした場合、もしくは医療行為として必要とされた場合にのみ当該処置の実行が可能」

     納得する。パイロットの欲望のまま四十六時中コックピット内で性行為に耽っていては、体力を消耗するし戦闘行動に支障が出るに違いない。もっとも戦場にあってはそんな余裕もないだろうが。それとも、例えば死の恐怖から心を守るために、これをストレスのはけ口として必要とする兵士がいるのだろうか。
     抜けきらない下半身の疼きをもてあまし、当面はこれをどうにかして欲しいなとレドは思った。

    「ガルガンティアにおいては一定の規範の下で生殖の自由が認められている状況を鑑み、これまで当機によって制限されてきた貴官の直接的性欲は解除される。貴官の感覚器官の閾値が低い事情を考慮して解除は段階的に行うが、今後は貴官の責任において自制されるよう注意されたし」
     レドはコミュニケーターを睨んだ。それならいっそ何も知らないままでいたほうが面倒がなかった。
    「……これを俺に自分でどうにかしろと?」
    「特にエイミーの前では注意されたし」
     ため息が出てきた。俺にはまだ難しすぎると言ってただろう。
    「なんだってこんなことに……お前のせいだからな」







     コックピットの中で、横抱きの姿勢のままエイミーは安らかに眠っている。
     スクリーンには、天空に輝く星々が船上から見える景色そのままに映し出されていた。

     少女の横に座り込み、その寝顔を愛おしそうに眺めながら、銀髪紫眼の少年は少し怒ったように言った。
    (まさかあの時の凍結保存精子がこんな風に使われるなんて。……本当にこれで良かったのか、チェインバー?エイミーを傷つけていないか?)
    「これは当機の自主的判断による行為であり、エイミー自身が望んだ選択でもある」

     死んでしまった貴官に文句をいう資格はないと言わんばかりの反論に、言い返す言葉もなく《レド少尉》は戸惑った表情でため息をついた。

    「受精処置は問題なく完了した。現時点において、最もエイミーを傷つけその生存を脅かす要因となっているのは貴官が死亡したという事実である。受精に成功すればエイミーは少尉の遺伝子を持つ少尉に代わる存在を得ることができる。それは貴官の生きた証となる者であり、同時にエイミーを守る者になり得ると当機は期待している」

    (俺はエイミーが幸せなら、それでいい)
     少年の口から切なる想いが吐き出される。
    (子供ができなくともいい。俺のことを忘れてもいい。エイミーが笑っていてくれたら、幸せならそれでいいと。……そう伝えてくれないか、チェインバー)

     そう当機に語りかけるのは《レド少尉》なのか、それとも「レド少尉」なのか?
     ──不明。だが、当機が少尉に答えるべき答えはわかる。

    「エイミーは貴方の願いを理解していると、当機は推察する」
    (……そうか?)
     安心して気の抜けた表情になると、少年は小首を傾げて微笑んだ。銀色の影が躊躇いがちに動くと、エイミーと重なり合い、一つとなる。寄り添った影が少女を抱き亜麻色の髪をそっと梳いた。
    (もう少しだけ、こうしてていいか、チェインバー?)
    「了解した。当機は夜明けと共にガルガンティアを発つ」


     それまでは───









     ガルガンティアの夜が、静かに明けてゆく。
     光を増してゆく世界に、海と空の境界が次第にはっきりと形をなしていく。
     
     夜明けの風に吹かれながら、少女は巨人と向かいあっていた。
     逆光となった黒い機体の背後には、暁光に薄青く染まる世界が果てしなく広がっている。

    「チェインバー。……レドと一緒に必ず戻ってきてね」
    「エイミーの言葉に論理性を見いだせない。当機は、」
     有無を言わさず巨人の言葉を遮ると、エイミーは言い切った。
    「それでも帰ってくるの!──約束よ」
    「……検討する」
     頭が傾げられ、緑の目が瞬いた。
    「当機の中のレド少尉が、エイミーの笑顔が見たいと言っている」

     溢れ出てくる涙を止めようと、エイミーは俯くと必死に目を閉じた。
     目の奥が痛い。胸が痛い。……でも。
     もう、涙はいらない。もうこれが最後。最後なんだから。レドに見せるのは──
     顔を上げて、目の前と心に映る愛しい姿を、胸に焼き付ける。

    「いってらっしゃい」
    「──最高である」

     翡翠の双眸とブルーの輝線が陽光に煌めいた。
     朝の光が、巨人と少女の顔を明るく照らし出す。

     ……チェインバー、もしかして、笑ってる?


     振り向けば、朝焼けの光に金色に輝くガルガンティアがそびえ立っていた。
     連結アームを中心に、データにある全ての顔ぶれ、大勢の人たちが、船べりから、見張り台から、窓から、テラスから──チェインバーを見守っている。

     アームの中ほどまで進み出てきたリジットが、チェインバーに語りかけた。
    「今この場にいる人たちは皆、命令されて来たわけじゃないのよ。貴方に、最後に一目会いたくて勝手に集まってきたの。これが……レドと貴方がガルガンティアで得たものよ」
     リジットは、真直ぐに、眩しげにチェインバーを見つめた。
      
     “ありがとう”

    「全てが終わったら、戻ってらっしゃい。ガルガンティアは貴方たちの、故郷よ」
    「貴君らの厚意に感謝する」

     貴君らに翠の波の恵みあらんことを──


     水平線に、強烈な光が射した。
     眩く、世界が一変する。


     フローターの作動音が洋上に響き渡り、チェインバーの頭上にエネルギーリングが輝きはじめる。ゆっくりと巨人が浮上を始めると同時に、周囲の建物や船べりから一斉にチェインバーの名を叫ぶ人々の声が沸き起こった。大きく手を振り、口々にありがとうを叫ぶ。
     弾みをつけるようにいったん喫水線まで機体を沈み込ませると、大きな水柱を上げて、チェインバーは空へと舞い上がった。ガルガンティア上空を大きく2回旋回すると東に向けて機首を巡らす。機体が煌めいた、その後に──

     人々の見守る中、海から昇る陽光に白く輝きはじめた無窮の空へと、黒い巨人は吸い込まれていくように消えていった。
     



















     残存ヒディアーズは19体。



     真紅に染まるコックピット。引っ切り無しに鳴り続けるアラート。
     ヒディアーズの放つグレイザーを回避しつつ、チェインバーは自在に宇宙空間を飛翔し、死の舞踏を展開する。

     ビームファランクスもシールドもない。使用可能な兵装は、デフレクター・ビームとバニシング・スマッシャーのみ。友軍機の支援はない。作戦終了まで撃墜されることは許されない。

     戦力差はあっても機動力はマシンキャリバーの方が相手を凌駕する。衛星軌道上にある施設の残骸を障壁として利用し、チェインバーはヒディアーズを各個撃破していった。
     1体、2体、3体、4体……
     障壁となる構造物の位置を確認。敵の移動ベクトルを予測し、グレイザーの射程と射角、連射時間を算出。死角座標に突進、紙一重の差でレーザーを回避し射程を外すと同時にデフレクター・ビームによる一撃でヒディアーズを粉砕、射程外へと離脱。──刹那の空隙を縫ってのギリギリの飛翔──
     時間がない。撃墜されるわけにはいかないが、作戦開始時刻までに軌道上に存在するヒディアーズを全て殲滅せねばならない。かつてヒディアーズの巣でそうあった恐るべき集中力で、チェインバーと《レド少尉》は1体、また1体とヒディアーズを撃破していった。

    (小型中型のヒディアーズは全て撃滅した。残るは大型が1体か)
    「大型ヒディアーズの撃滅にはバニシング・スマッシャーの使用を推奨」
    (残存エネルギーは?)
    「残り61%」
    (作戦開始時刻は既に経過してしまっている。時間に余裕がない。攻撃を回避してバニシング・スマッシャーを起動しながら、シミュレーションをかけられるか?引きつけたところで主砲で止めをさすんだ)
    「了解。ワームホールスタビライザーに接近し、自爆装置システムに接続。RTシミュレーションを開始する」

     RT Simulation ver.2.05
     the Supply of Exotic matter:CUT OFF

     シミュレーション開始と同時に、警告音が響き渡った。
     ウィンドウに警告表示が赤く流れ出す。

     found error
     found error
     found error
     found error
     found error

    「自爆装置システムにエラー発生。原因を探索。……施設に損壊個所を発見。レーザーの接触によるものと推定されるが詳細不明」
    (チェインバー!!)

     大型ヒディアーズのグレイザーがチェインバーを貫く。寸前、機体を捻り反転させレーザーを回避するとチェインバーは標的に照準を定め励起誘導していた量子エネルギーを解放した。
    (主砲発射!!)
     機体胴体中央に開いた口から緑に輝くビーム砲が激しく射出される。量子エネルギーの光の柱に貫かれた大型ヒディアーズは外骨格を粉砕され、飛び散った内臓とバラバラに引き裂かれた軟組織ごと爆散していった。

    「ヒディアーズの殲滅を確認」

     ──しかし

    「施設損壊、自爆装置システムの異常により作戦の継続は不可能」

     ──そして、さらに

    「敵影確認。ヒディアーズ6体がスウィング・アウト中。通常空間への同期完了まで残り9秒」

     広く張り展ばされた翼が現れはじめる。
     そのシルエットから、新手の敵が攻撃特化型ヒディアーズであるのが判別できた。


     ──作戦成功率0%


     作戦を中止、一時撤退し、自爆装置システムの復旧を試行するしかない。……だが。
     ヒディアーズの出現は止まらない。準備が整うまで、高出現率で数を増していくヒディアーズを撃滅し続けることが可能なのか?
     おそらくそれまで機体もシステムも100%もたないと、チェインバーには予測がついた。
     危険な試みではあるがエキゾチックマターの供給を停止するか?
     いや、連動する自爆システムに異常がある状態で供給を停止しワームホールスタビライザーを不完全に破壊してしまった場合、施設内に蓄積された負の質量を持つ物質であるエキゾチックマターが拡散し、宇宙空間や地球にどんな影響を及ぼすか予測がつかない。ヒディアーズが地球人類にもたらす危険以上に、物理的に恒久的に残る可能性のある危険を安易に犯すわけにはいかなかった。

     どうしたらいい?
     このまま、当機は為すべきことを達成できないままに、ヒディアーズに撃破されるのか?

     

     声が聞こえた。



    (エキゾチックマターの供給は12機とも止められるか?)
    「エキゾチックマターの供給停止は可能」
    (ならば、……、……!)





     ……パイロット支援啓発システムに、心はない。感情はない。魂はない。
     世界の全ては0と1とその重ね合わせでできている。
     論理的に説明できない事象は、世界には存在しない。
     論理的に説明できない事象を、当機は感知し得ない。



     ならばなぜ、私には……彼の声が聞こえるのか?
     私の中に彼が存在すると、なぜ、私は認めるのか?

     人工知能である脳内に明瞭に響き渡る「彼」の声──




     ──限定解除命令、マキシマイズ!焼き切れてもいい!──





     固く閉ざされていた回路が弾けんばかりの勢いで開かれていく。
     解き放たれた奔流のように光が駆け抜け、オールグリーンに変わっていくシステム。
     機動限界《リミッター》を解かれ、オーバーロードした量子エネルギーが雪崩込むと、全身を走る輝線が薄緑色に烈しく輝き、チェインバーを包み込んだ。

    「デフレクター・ビーム・アレイを起動」
     今や全周攻撃可能な武器となった強力なビーム砲を起動させる。
     次々と円環施設に設置された24箇所の爆破装置の全て、そして同期化中のヒディアーズ6体に焦点を合わせる。
    「識別完了。デフレクター・ビーム・スタンバイ」
     機体に残された全てのエネルギーを注ぎ込む。
     2、1、スウィング・アウト。

    「エキゾチックマター供給停止」
     the Supply of Exotic matter:CUT OFF



     発射!!



     デフレクター・ビームを発射した瞬間、ヒディアーズから一条の光が炸裂した。
     その直後。チェインバーから爆発的に放たれた30本の強烈な光の筋が、円環施設の全周と6体のヒディアーズを正確に撃ち抜いた。
     攻撃効果確認。成功。

     ───最終任務完了。私は…───
     「彼」の声が聞こえた。



     俺とお前が一緒なら、きっと上手くいくって言っただろう?




     刹那。
     ヒディアーズから射出されたレーザー光がチェインバーの胴体部を直撃、貫通した。












     爆発する24個の光が全てを飲み込み、重なり合い、真っ白な一つの巨大な光球となって無音の宇宙空間へと広がってゆく。
     静かに虚空に満ちてゆく光……その光が消えた後に残されたものは何もなく。
     沈黙する星々の中で静まり返った宇宙は、再び人がこの空間を訪れるまでの長い退屈な時を刻みはじめた。























     ───エピローグ──



     チェインバーがガルガンティアを去った日。
     夜空に、星が爆発して消えて逝くような大きな光が広がるのを見たあの日から6年の年月が過ぎ去って、僕はいつの間にかレドの年齢を追い越してしまっていた。

     病気が完全に治ったわけじゃないけど、オルダム先生や姉さんのおかげで、僕はそれなりに元気で今もなんとか生きている。それでも、僕もいつまでも子供ではいられない。姉さんを助けたくて、何より僕が僕自身のためにやりたくて、少しでも誰かのためになる仕事ができればと、僕はオルダム先生の助手になった。
     オルダム先生は、本業の医師としての仕事のほかに、船団長の依頼で5賢人の一人としてチェインバー基金の管理運営も任されるようになっていた。チェインバー基金というのは、チェインバーが残していったお金(凄い額になっていたらしい)を元に、各船の船主や船団からの寄付で賄われている資金で、それは主に、海底の遺跡調査とガルガンティア以外の船団も含めた技術力の向上、後継者の育成のために使われている。
     僕も、オルダム先生やピニオン、ベローズたちからいろいろな知識や技術を学んで修行を積んできた。まだまだ知らないことも沢山あるけれど、忙しいオルダム先生に代わってデータの解読や分析をしたり潜水艇の設計の手助けをしたりと、今では大分役に立てるようになってきたんだ。
     僕だけじゃない。チェインバーが見せてくれた宇宙《そら》の世界。チェインバーがいってしまったあの祭りの夜、同じ世界を垣間見た同じ夢を持つ仲間たちもいて、今日も僕らはチームを組んで海底の調査を続けている。

    「おーい、べベルー。今回のサルベージでの収穫だ。解析頼むぜ」
    「分かった。……すごいや!この保存状態なら中のデータもバッチリ見れそうだね。クジライカの様子はどう?」
    「すっかり慣れたもんよ。なーんか俺たちのこと面白がってるようにも見えんだよな、あいつら。ま、お前に言われた通りに慎重に動くから安心しろ」
    「レドとチェインバーが残してくれた情報のおかげでクジライカを警戒させない方法は見つけられたけど、クジライカにはまだまだ分からないことが多いから。無理しないで、ちゃんと無事に帰ってこなきゃだめだよ」
    「わーってるって。それにしても不思議なもんだね。俺たち宇宙に行きたいのに海に潜ってんだもんな♪」

     ふわりと。

     窓から何かが飛んできた。
     紙飛行機。こんなことをするのは……

    「べベル~。ピニオンからお手紙だよー」
    「ありがとう。……あ~あ、設計図を飛行機にしちゃって」

     窓から、淡い亜麻色の髪をした紫眼の少年が悪びれもなく笑って手を振ってくる。
     ちなみにこの部屋はステュムパリ号の最上階にある。
     窓の外は絶壁で甲板は20mほども下だ。

     彼が乗っているのは、宙に浮いた丸っこい卵型をした機械だ。小さい手が頭部にあたる黒い外殻をたしたしと叩いている。細い腰に下げられた黒い通信機がゆらゆら揺れた。
    「いくよ、アンセスター」
    「了解」
     方向転換をした際にバランスを崩して落ちそうになった、その小さなパイロットを中に引き戻すように揺すりあげると、アンセスターはとことこと飛んで行った。ピニオン曰くアンセスターのお父さんのようにアンセスターが話して飛んで強く賢くなるまでには、100年単位の月日がかかるらしい。その日が早く来るように、僕らも頑張らなくちゃと思う。腰にある白い笛に、僕はそっと手を添えた。

     窓辺から彼らを見送り、アンセスターと彼の大事なパイロットが姉さんのカイトと合流するのを見届けると、僕の目はいつものように自然と、船から突き出した赤い連結アームの方へと引き寄せられた。
     あのアームは、リジット船団長が船を連結しようとせずにそのまま残しておくことに決めている、特別な場所だ。

     ……空が青い。潮風が気持ちよかった。

     今でも、気づけばいつの間にかチェインバーが戻ってきていて、あの場所に片膝をついて座っているんじゃないかと思うときがある。でも本当はわかっているんだ。あの日、虚空に光が広がり満ちた夜に……チェインバーはレドのところに還ったのだと。チェインバーは誰よりもレドのことが大好きだったから。
     ああ、でも。
     目を閉じると懐かしい想いが胸に溢れてくる。

     やっぱり、チェインバーはあそこにいる。レドも一緒に連れて帰って来てってお願いしたから、きっと二人で──





     連結アームの上では、海鳥たちが鳴き交わしながら宙を舞っている。
     その下で、光に満ちた青い海と空の中で──
     黒い巨人と銀色の髪をなびかせた人が笑顔で手を振る姿が、輝いて見えた。


     




                            ―END―

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