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    水底

     静かな室内に響く、耳ざわりな電話の呼出音。

     寝不足な朝だからとか、昨夜の酒が残っているとか。
     電話の音が気にさわるとすれば、いつもはそんな程度の理由であるのだが。
     白い制服姿の青年は、鳴り出した携帯をポケットから取り出すと、苛立たしげに煙草の火を消した。
     ――ったく。あと三日寝れば正月だってえのに、ろくでもない事件ばかりだからなァ。

    「もしもし?村雨か?」
     呼出の相手を認め、広がる淡い安堵感。
     存外と心配性だったのだと、自分に思わず苦笑した。
    「よォ、先生。元気にしてるかい?」

     何の用だろう?
     麻雀仲間の如月や蓬莱寺ならともかく、緋勇が村雨に連絡をよこすのは、それなりに大事な用がある時がほとんどだった。
    「おかげさまで何とか生きてるよ。急な話で悪いんだが、御門に会って聞きたいことがあるんだ。連絡つかないかな」
    「御門に?分かったぜ」

     短い了解の言葉とともに、電話を切る村雨。
     緋勇の携帯が鳴るには、それから5分もかからなかった。
    「今日の2時、中央公園に芙蓉を迎えにやるってよ」

     いまこの時期での、緋勇の頼みごとである。
     己の関心事に対しては、この男はめっぽう行動が速いのだった。





     御門の結界内にある浜離宮。
     ≪外界≫がどれほど厳しい季節にあろうとも、それはこの場所とは無縁のものだった。数日前に綻びた結界はすでに修復され、あったはずの闘いの跡も、今はその名残を留めない。
     この地を護る者の心を映し出すかのごとく、浜離宮は以前に訪れた時と変わらぬ、包み込むような常春の中にあった。

     芙蓉に伴われて姿を見せた来訪者に、屋敷内に入るよう誘う御門。
     彼は頭を振り、時間はとらせないからと、それを丁重に断った。
     結界の主もそれ以上は何も言わない。
     見晴らしの良い、庭の一隅にある東屋に案内された緋勇は、すすめられた椅子に座ろうともせず、そんな彼に軽く肩をすくめると、御門はひとり腰を下ろした。
     庭園をみつめたたずむ青年に、御門は背もたれに身を預けた楽な姿勢をままで、何の用かと問いを発した。
     余計な気遣いはしない。
     彼の様子が、普段と違っていたとしても。

     ――私の管轄外ですからね。
     彼を慰め、元気づけようとする仲間は、他に幾らもいるのだ。
     それは、自分の役柄ではない。そう御門は思っていた。

     どう切り出したものかといった、逡巡の後。
     青年は穏やかに口を開いた。
    「御門、柳生の居場所を知っていたら、教えてくれないか」
     予期しない問いに、陰陽師は柳眉を上げた。
    「それを聞いてどうしようというのです?」

     この青年が、その柳生にどんな目に遇わされたかは、記憶に新しい。
     遠い過去の話ではない。ほんの数日前のことである。
     その問いは正気の沙汰とも思えなかった。

    「先手を取って、柳生を封じる。奴が事を起こす前に」
    (これが、つい先日、死の一歩手前まで追いやられた人の台詞とはね)
     内心舌を巻いた。もちろん顔には出さない。

    「今のあなたに、その力がありますか」
    「わからない。だが、奴が≪龍脈の力≫を手にいれる事態になれば、状況は不利になる。今のうちに阻止できるものなら、できるだけの手は打っておきたいんだ」

     情報が欲しい、と彼は言った。
     陰陽師は、口をつぐんだ。
     青年を値踏みするようにながめた。

     現在の要所となる状況は、押さえてある。
     そして、目の前にいる人物が、本人が考えるほど万全の状態とはいえない事実も。闘気は衰えずとも、かいま見える消耗と憔悴の色。最近の出来事を思えば、無理もないことだ。
     御門家の当主としては、いま少し時間を稼ぎたいというのが、本音だった。

    (まだ、機ではない)

     慎重に答えた。
    「残念ながら。彼は結界の中に身を隠し、このわたしにも居場所を特定できないのですよ」
    「そうか」

     風に木漏れ日が揺れ、花の香が溢れてくる。
     木々や花々の美を映すこともなく、二人の瞳に宿るものに温かみはない。
     これで話は終わりではないと解かっているのか、次の言葉を待つここの主を前に、彼は再び口を開いた。

    「陰陽師で東の棟梁でもある君なら、知っているかもしれないと思って。『黄龍の器』とは何なのかを」
     無遠慮な視線が、緋勇を貫いた。
    「それは、龍山先生と道心先生からお聞きになったのではありませんか?」
     青年は陰陽師の言葉に頷いた。
    「道心さんは『黄龍の器』は一つの時代にただ一人、≪龍脈の力≫を得ることができる存在だと言っていた」

     だが、これまで『黄龍の器』だった者で、それを自らの意志で用いた者はいたのだろうか?
     ≪龍脈の力≫は大いなる大地の力と聞く。そんな膨大な力をたかが一人の人間が制御できるとは思われない。たとえ、その人間が『黄龍の器』であったとしても。
     もしそうなら、『黄龍の器』である者は、どうすればいい?
     手に入れても手に余る力、いっそ大事なものを傷つけるかもしれぬ力に選ばれたという、その宿星を持った人間は。
    「俺は、柳生はもとより、俺も含めた誰の手にも、≪龍脈の力≫を渡らせるつもりはない」

     その選択が正しいのかどうかはわからない。せねばならぬことは他にあるのかもしれない。
     だから専門家の意見を聞いておきたかった、と緋勇は言った。
     御門は、半身の姿勢で扇を弄びながら、耳を傾けていた。
     その顔からは、何も読み取ることはできなかった。

    「最優先したいのは、黄龍を覚醒させないこと。そして、全員無事でいることだ。黄龍を目覚めさせようとする元凶の柳生を阻止できれば、それに越したことはないが……現に俺は柳生と二度闘って、二度とも負けた。次も負けるつもりはもちろんないが、楽観的に大丈夫だと言う気もないんだ」
     淡々と言葉は紡がれた。

    「手を尽くしても予想外の事態が起こる可能性もある。それでも龍脈の力が奴の手に落ちるようなら──」
     二組の双眸が絡み合う。
    「どんな手段を使っても、黄龍を封印するつもりだ。そのために必要なら、俺は≪力≫を受け入れてしまうかもしれない」

     春の陽差しが燦燦と降りそそぐ中、二人の青年は微動だにしなかった。
     先に沈黙を破ったのは御門だった。

    「時代の覇者が現れる時、あなたがそれを欲するのかどうか、わたしはそこに興味があったのですが。あなたは≪龍脈の力≫を望むのですか?」

     その問いに、畏れや揶揄の響きはない。
     ただ、訊いている。そんな風だった。

    「いいや」

     緋勇は小さく頭を横に振った。
     御門の瞳に、興味深げな光が浮かぶ。
    「やはりあなたはおもしろい。あまりにも無欲で愚かだが、どこか捨て置けないのですよ」
     相手の真意が掴みかね、戸惑いの表情を見せる緋勇。
     そんな彼を、御門は考え深げに見つめた。

    「どうやら、あなたの覚悟は決まっているようですし、今更わたしの助言など必要ではないように思えますが。あなたは私に何を望んでおられるのです?」
    「御門、この機会に頼みたいことがある」
     青年は、御門の顔をみた。

    「今度の事に失敗は許されない。それに、俺は自分の行動の選択が周囲に与える影響を、過小評価するわけにはいかない。だけど、≪力≫を受け入れたら俺はどうなってしまうのか。俺には確信が、正直言って自信がないんだ。だから頼む。御門、『その時』には一緒にいてほしい。君なら、最悪の状況になっても冷静に事態に対処できる。一番大切な事を見誤らないでいてくれると思うから。たとえ俺を」

     緋勇は言いよどんだ。
    「俺の身に何が起こったとしても」

     御門は表情を崩さなかった。
     ゆっくりと面を逸らす。

    「やれやれ、あなたの失敗の後始末をわたしにさせようというのですか」
    「そうならないよう、最善を尽くすよ。けど、万一の時には、君の力が必要なんだ」
    「全く、こちらの都合も考えない一方的な言い分ですね」
    「すまない。甘えとは思うが、俺も必死なんだ。かかっているものがあまりにも大きすぎるから」
     東京と、仲間たちの命とが。

    「他に適任者がいなくてね」
    「ふふん、甘えとわかっていてわたしにそんな話を持ちかけるとは、あなたも困った人です」

     軽い音を立てて閉じられる扇。
     御門は心持ち居ずまいを正し、緋勇に向き直った。

    「確かに黄龍が覚醒すれば陰陽の均衡が崩れ、周囲に多大な悪影響が出るのは必至。それについては、私は私なりに対処させていただくつもりだとは言っておきましょう。あなたが失敗すれば東京、ひいては『あの方』にも危害が及ぶということですからね」
     その場にいない誰かの姿を追うかのごとく、彼の目は微かにゆらいだ。

    「しかし、はっきり言っておきますが、龍脈の力を動かすことができるのは『黄龍の器』のみ。その宿命を他者に押し付けることはできません。それは『あなたが』せねばならないことです。好むと好まざるを得ず、あなたはその責任から逃れることはできないのですよ」
     陰陽師の双眸が鋭い光を放ち、容赦なく相手を射抜いた。

    「己が宿命から逃げるような無様な真似をして、私を落胆させることはないように願いたいものです」
    「ああ、わかっている」

     その瞳に込められた信頼を。
     逸らすことなく、御門は受けとめた。

    「今日は話を聞いてくれて、ありがとう。それから」
     一息ついて言葉が続く。
    「すまない。俺の頼みをわかってくれて」
    「一体何のことですかね」

     陰陽師は不機嫌に答え、片手を挙げた。話は終わった、との合図だった。
     彼を送り出すために立ちあがる御門。
     別れを告げ、踵をかえす緋勇。

     ふと思いついたように投げかけられた一つの問いが、帰りかけたその背を引き留めた。
    「あなたがここまで闘い続けてきたのは、一体、なんのためですか?」
     躊躇なく、彼は答えた。
     はじめて会った頃に見せたのと同じ、少し照れたような笑みを浮かべて。
    「護るため、かな」

     大切なものを。仲間がいるこの場所を。
     覚えずして、御門は自分が言う声を聞いた。
    「命を賭して他を護るなど、正気の沙汰ではありませんよ。あなたも……わたしもね」
     交わる眼差しに、共感の色合いが滲み出る。
     ほんの一瞬の間であったが、それで十分だった。

    「あなたは、『全員無事で』と言われた。それには『あなたも』含まれるのですからね」
     意表を突かれた表情の後、あらわれる不敵な笑み。
     御門はそれを心に留め置いた。

    「むろん。勝つっていうのは、そういうことだろ?」





    「それでは、いずれ。龍麻さん」
    「ああ、またな。晴明」

     咲き乱れる花々の中を、再び芙蓉に伴われ、青年は立ち去って行く。
     その振り返らない後姿を、御門はじっと見送り続けた。

     あの背にかかっている責務と重圧を、真に理解する者はほとんどあるまい。

     仲間といえども、それは同様だった。
     彼の想いをよそに、春をさえずる鳥たちのざわめき。
     結界内から一歩足を踏み出せば、そこには寒風の吹き荒ぶ冬が待っているのだ――。





    「告白タイムは終わったのか」

     立ち上がる物音に続いて、東屋の向こう側から姿を現した人影があった。

    「立ち聞きとは、悪趣味ですよ、村雨」
    「おや、俺は座って聞いてたんだぜ。席をはずせとは言われなかったからな」
     振り返ろうともしない長髪の青年に、村雨は言葉を投げ掛けた。

    「お前、本当に柳生の居場所が分からないのか?」
    「私とても、全知全能というわけではありませんからね」
    「ふん。相変わらず食えない奴だぜ」
     閉口気味の陰陽師に、それでも博徒の王は追及の手を緩めようとはしない。

    「それなら、緋勇がなぜお前に会いにきたのかは、わかっているのか」
    「彼は≪龍脈の力≫を受け入れる事態になった場合のことを恐れて、ここへ来たのですよ。助言と安心を得るためにね」
    「へっ。それをお前さんはどっちも奴に与えなかったというわけだ」
    「当然でしょう。自分自身が持たずにいるものを人に与えることなどできはしませんよ」
     私に保険をかけられても困りますと、不機嫌な呟きが聞こえる。

    「だが…あいつの本当の頼み事はそんなことじゃないだろう?」
    「……」
    「あの先生はいざとなったら自分を質にして事を収めるつもりらしいぜ」

     表情に、驚きの色は出なかった。
    「そして、それを見届ける役割に共犯者として私を選んだようですね。まったく迷惑な話です」

     おや、わかっていたのか、と意地悪く言う村雨に、御門は苦い顔をする。
    「それにしても、何故わたしなのか……。あの人の仲間は他に大勢いるというのに」

     憮然として呟く相方に、村雨は忍び笑いを漏らした。
    「他の奴らときたら、誰かが溺れていようものなら、泳げなくても濁流に飛び込む馬鹿揃いだからな。お前なら奴を護ることも奴のために命を賭けることも絶対しないだろう?だから、適任なのさ」
     一寸の間の後、言葉が続く。
    「他の奴らなら、黄龍うんぬんよりも緋勇を助ける方を優先しちまうだろうからな。それじゃ、奴にとっちゃあ元も子もない」

     少々不服げに複雑な表情を浮かべて横を向く友を、彼は面白そうにながめた。
     マサキ以外の誰かのために何かをしようとしている己を、この頑固ものは決して認めはしないだろう。村雨から見ると、そんな御門が可笑しくも可愛いらしくもあった。

     うららかな陽の下で、二人の青年は同じ一人の友に想いを馳せる。
     全てが無事に終われば、彼がどんな決意を秘めて最後の闘いに臨んだか、他の者が知ることはあるまい。

     それが彼の青年の強い願いであると、彼らは確信していた。

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