SS部屋

    二次SS&感想置き場です

    プロフィール

    夏風

    Author:夏風
    拍手&一言連絡はこちら→_旦~~

    pixivリンク先はこちら


    土竜穴から引越しました☆

    SS用拍手(ジャンル別)

    コメントは任意&非公開です☆

    ブロとも申請フォーム

    カウンター

    スポンサーサイト

    上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
    新しい記事を書く事で広告が消せます。

    虚空に光は広がり満ちて 4

     

     薄暗がりの中、小さく響く布を絞る水音。
     淡いランプの光が、昏い小部屋を微かに照らし出していた。

    「姉さん、具合はどう?」
    「ん……そんなに悪くないよ。大丈夫。心配かけてごめんね」

     熱で潤んだ瞳が優しく少年を見つめ、にっこりと明るい笑みが返されてきた。
     ぞくりと。その透明な笑顔に不安がこみ上げてくる。ぎゅっと胸が痛み、息が苦しくなる。
     このまま姉さんが消えてしまったら。いなくなってしまったら。怖くて、不安で、心配で。身体中の力が抜けて溶けていきそうで。
     心を圧し潰そうとする無力感を振り払おうと、息を吸い込むと、少年は唇を噛みしめた。
     しっかりしなくっちゃ。ここで僕まで倒れてしまったら、姉さんは本当に立ち直れなくなる。レドはいないんだから。姉さんにはもう僕しかいないんだから。僕が姉さんを守らなくて誰が守る?
     ぺたりと。べベルは水で冷やした布をエイミーの額に当てた。掛け布団の下から、そっと手を握る。

    「気持ちいい……」
    「明日の朝、オルダム先生が姉さんを診に来てくれる。僕も大丈夫だから。もう少ししたら僕も寝るからさ、姉さんも安心して眠ってよ」
    「うん……ありがとう、べベル──」

     赤らんだ頬を半分枕に埋めて眠りにつくエイミーを、べベルは悲しげに見守った。
     そもそも姉さんが心労で倒れたのは僕が体調をひどく崩したせいだ。僕が死んでしまうかもしれないという不安で姉さんの心は限界にきてしまった。また大切な人を失ってしまうんじゃないかって。レドがいなくなって以来、姉さんの心は不安定になっていたから。姉さんを精神的に支えてくれていたチェインバーは、3週間経った今もまだ戻ってきてくれない。

     お見舞いに来てくれたサーヤの言葉が脳裏をよぎった。
    (エイミーは1日1回はチェインバーに会いに行くの。彼がガルガンティアにいるときは毎日よ。エイミーは……チェインバーの中にレドを見ているのじゃないかしら。きっと彼のこと、まだ忘れられないのよ)
     ──沈痛な面持ちで、べベルは目を伏せた。腰に下げた白い笛を握りしめる。


     いつか、チェインバーが二度と帰ってこない日が来たら、姉さんはどうなるんだろう?


     せめて、僕の身体が丈夫だったなら、姉さんに心配かけないですむのに。
     姉さんを一人にしないって。ずっと傍にいるって約束できるのに。
     悔しくて、悲しくて。
     溢れてきた涙がシーツや膝に落ちるのも構わず、べベルは声を出さずに小さく泣いた。
     こんな風に姉さんが隠れて泣いていても、僕にはただ見ていることしかできないんだ──






     鼻歌まじりで作業に没頭する金髪青年を、膝に頬杖をついてしゃがみ込んだ姿勢のまま、マイタは呆れ顔で眺めていた。
     チェインバーの修理をしてからずっと、船団の修理作業は仲間に任せっきりで、ピニオンはサルベージ品の解析と修理に余念がない。長期休暇の埋め合わせをするとか言ってなかったっけ?と、いつもなら文句の十もこぼしてぶーたれたいところだったが、負けた。次々と伝説のお宝を蘇らせる神業とも思えるピニオンの手腕に、マイタを含めた修理屋仲間全員がすっかり心酔してしまっていたのだ。

    「いったいどうしちゃったんだよ?いつの間にそんな腕あげたのさ?」
    「んー。ブリキ野郎だよ。あいつのおかげでいろいろと、な」

     今ピニオンが取り組んでいるのは、大人一人が入るくらいの、心持ち平たい丸い卵形をした物体だった。しいて言えば、チェインバーの頭部をつぶして丸っこくして後頭部をくり抜いたようにも見える。

    「何なのそれ?乗り物みたいにも見えるけど車輪も足もついてないし。半円部分はスクリーンのようだけど計器もレバーも見当たらないし」
    「こりゃ例の船団から貰い受けたよく解かんねえお宝だ。……つーか『だった』。こいつが何だか解ったからな。もの凄い貴重品だぜ」
    「で、何なの?」
     ピニオンは楽しそうにくつくつと笑った。
    「そうさな……一言でいうなら、ブリキ野郎のご先祖ってとこかな」
    「ええっ?全然似てねーじゃん?」
    「まあ人の形はしてねえけどな。こいつには人工知能が搭載されているんだ。おまけに重力制御装置もだ。ブリキ野郎に比べればもちろん超初期型だけどよ。修理してプログラミングして仕込んでやれば、そのうち自分で考えて動いて飛べるようになる……たぶん。そのはず」
    「ホントに?なーんか頼りないなァ」
    「こいつが喋れるようになったら、アイツに向かって『私はお前の父である』って言わせてやるんだ♪」
    「……絶対超絶スルーされる」
    「息子でもいいな。『パパ!』って♪プログラミングはブリキ野郎の一部をぱくったから。くう~~ッ!そんときのあいつの顔みてぇ!」
    「……ビーム砲で瞬殺だな」






     ジョーは廃墟となった一般船を前にため息を吐いていた。集まってきた近くの船の子供たちが、興味津々で遠巻きに作業を見守っている。
    「おーい親方~。こりゃダメだ。どの連結器も長い間使ってなかったせいで完全にいかれてる。こいつを外そうと思ったらもう壊すしかねえ」
    「面倒なことになったな。……チェインバーはまだ帰ってこねえのか?半月どころか一月も経ったし、いい加減戻ってもいい頃合いだが。あいつがいれば話が早いんだがなァ」
    「チェインバーはまだだ。浸水も酷くなってるし早いとこ連結器ぶっ壊してボロ船切り離さねえとヤバいっすよ」
    「ったく。肝心な時に何処ほっつき歩いてるんだかあいつは」
     子供たちが顔を見合わせる。
    「チェインバー、まだ帰ってこないってさ」
    「つまんないの」
     ジョーが子供たちを牽制する。
    「お前ら、こっちの船は沈んじまうんだから絶対に近づくんじゃないぞ!……それにしても皆すっかりチェインバーがいるのに馴染んじまってるな。あいつが戻らなかったら一体どうなるんだか──」





     ──まだ戻ってこない。

     双眼鏡を下すと、リジットは微かにため息をついた。気づくのが遅すぎたのだろうか。
     単なる勘にすぎないのかもしれないが、リジットの心の片隅では警鐘が鳴り続けていた。
     見えなくとも水面下に危険が潜んでいるのだ。知らずにいることは罪だ。レドの時もそうだった。あの時……レドとチェインバーを黙って行かせるべきではなかったのだ。少なくとも全ての事情を洗いざらい聞いておけば、何か他に手の打ちようがあった可能性はある。あの子たちは聞かれなければ何も答えようとしないから。

     結局、何も知らずに守られていたのは私達。
     レド一人に何もかも背負わせて、死なせてしまった。

     後悔するのは沢山だった。
     チェインバーはレドの忘れ形見で、仲間だ。
     今度は同じ過ちを繰り返すまいと、そうリジットは固く心に決めていた。
     海の彼方に目を凝らすと、めぐり銀河の黒い帯が遠くに見える。


    「……そろそろお祭りね。早いものだわ」






     連結アームの上を、鳴き交わしながら渡り鳥たちが宙を舞う。
     その空っぽの空間は、静かに巨人の帰りを待ち続けていた。
     

    スポンサーサイト

    コメント

    コメントの投稿








     ブログ管理者以外には秘密にする
    上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。