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    虚空に光は広がり満ちて 3

        

    「オーライ、オーライ。急ぐな、ゆっくりとやれ!」

     ざばざばと水音を立てて、大きな人型をした物体がクレーンに吊られて海中から引き上げられる。
     ズシンと。
     大量の海水をぼたぼたと滴らせながら、黒い巨人はサルベージ船の甲板に横たえられた。
     べローズが怒鳴った。


    「あたしの声が聞こえるか?返事をしろチェインバー!」


     一体どうしたってんだ?
     呼んでも何の反応も示そうとしない巨大な機械の体を、べローズは不安げに仰ぎ見た。






     ──再起動完了。現状を把握する。

     記憶データにある風景。修繕の痕が残る天井に、無造作に置かれた機械パーツの数数。
     現在位置はレド少尉と共にガルガンティアに逗留していた時に使用していた修理船の格納庫である、とチェインバーは認識した。
     センサーが人のいる気配を感知した。

    「やっとお目覚めのようだな、ブリキ野郎。信じて待ってた甲斐があったってもんだぜ」

     声のした方に視覚センサーを向けると、そこには超不機嫌そうな顔をしたピニオンが立っていた。言い訳は許さねえと、真剣なジト目が首根っこを掴まんばかりにチェインバーを見据えている。

    「起きたところで、早速だ。おい、お前が必要としていることを俺に教えろ」
     チェインバーはピニオンに向けて僅かに頭部を傾げた。
    「質問の意図不明。当機が必要としている、とは?」

     眉間に皺を寄せ、苛立たしげに唸るピニオン。
     ドンと激しく機体を拳で叩く。

    「この期に及んで何言ってんだよ!壊れかけてんだろ、お前?無理もねえわな。いくら高性能のユンボロったってレドがいなくなって此の方まともな整備は一回も受けてねえんだから。ここまでもったのが不思議なくらいだぜ」
    「当機にはナノマシンによる自動修復システムが装備されている。機体整備の大部分はパイロットの手を必要とせず問題はない」

     鼻を鳴らすと、ピニオンはそっけなくその言葉を一蹴した。
    「問題ない奴が墜落するかよ。……言い方を変えようか。大部分はってことは、残り一部はどうなんだ。お前は修理を必要としている。そうなんだろう?」

     緑の目が瞬いた。ピニオンの考えは半分だけ当たっている。

    「──肯定する。しかし貴君にはマシンキャリバーの機体整備に関する技能及び資格はなく、当機の整備任務に就くことは極めて困難である」

     嫌々ながらしぶしぶ認めたってとこだなと、ピニオンは思った。
     それで引き下がると思ってんなら甘いぜと、たたみかける。

    「困難、ってことは、不可能じゃねえんだよな。なら俺にやらせてみろよ。やれるかやれねえか、やってみなくちゃ分かんねえだろ。やってみてダメだったら俺も諦めるさ」

     今度の間はさらに長かった。
     チェインバーのセンサーがピニオンの意志能力を推し量ろうと探っている気配が感じられた。

    「条件つきにて同意する。貴君はマシンキャリバーの整備技能を有しない。よって、貴君の提言を受け入れるに際しては、貴君が当該技能を得るため自発的に当機の支援啓発を受け入れることを前提とする」
     眉を上げるピニオン。
    「簡単に言うと、教えてやるから素直にお前の言うことを聞けって意味だな。具体的には何をすればいいんだ?」
    「初めに、当該技能に関する基礎知識を得るため、貴君は当機による100時間の睡眠啓発を受けなければならない。人の心身の負担と限界を考慮し、その課程を修了するには少なくとも5日を要する」
     思いもよらない話に戸惑うピニオン。
    「寝てるうちに俺の頭ん中に知識を叩き込むってか?そんなことができるのか?」
    「当機には可能である」

     ピニオンは軽く口笛を吹いた。それならば話が早い。普通に聞けば眉唾ものだが、一緒にサルベージ品を解析してきた経験からすれば、どんなに信じられない話であってもチェインバーが嘘を言ったことはなかった。
    「予想はしてたが長丁場になりそうだな。ちょっと待ってな」
     腰のポケットから通信機を取り出し、回線を開く。

    「マイタか?急で悪ィが半月ほど休暇を貰うわ。なに?……それくらい手前らでなんとかしろ。この埋め合わせは後でちゃんとするからよ。……理由?ブリキ野郎だよ。リジットからも頼まれてんだ。しばらく俺がコイツの面倒みることになったんでな。頼んだぜ」

     通信機からの抗議の叫びを黙殺すると、ふんと笑って通信機の電源を切るピニオン。

    「さてこれでよしと。そんじゃはじめますか」

     金髪青年の促しにもチェインバーは答えない。
     動こうとしない巨人を、ピニオンは訝しげに見上げた。

    「どうしたよ?お前の言う通りにしてやるって言ってんだ。文句あるか?」
     心なしか慎重な応答があった。
    「貴君に対して再度意志確認を行う。貴君は銀河同盟の管理下で育成された人間ではなく、また私は貴君に関する生体情報及び心理的所見を有しないことから、当機の睡眠啓発が貴君に与える影響についてはこれを予測しえない。貴君の心身に深刻な悪影響を及ぼす危険性について、貴君はこれを理解しているか?」

     ピニオンは肩をすくめた。

    「そんなもん、わかっちゃいねえよ。だけどそうしなきゃ、お前の修理ができねえんだろ?ならやるしかないだろうが」
    「貴君の発言に論理性を見出せない」
    「またそれかよ。理屈じゃねえんだよ。リスクがあろうとやらなきゃなんねえときはやるのが人間ってもんよ」
    「有為提言。貴君は当機のパイロットではなく、自らの心身を損傷の危険に晒す必要はないと考える」
    「俺に気をつかう必要はねえよ」

     心身の損傷ときたか。
     こりゃ思った以上にヤバい橋なのかもしれんなと、ピニオンは内心ひとりごちた。
     しかし、このリスクには相当の見返りもある。このチャンスを逃してチェインバーの機体構造に関する知識を得る機会は二度とないだろう。それに、それがなくとも───

     動かない機体に背を預けると、腕を組んで不機嫌そうに錆びた床に視線を落とすピニオン。

    「おめえの頭ン中にゃ、レドしかいないのは分かってるさ。でも……少しは頼れよ。俺は修理屋だ。壊れかけてるユンボロを指咥えてみてんのは心底我慢ならねえんだよ」
     すかさず来る抗議の声。
    「当機はユンボロに該当しない。私の属するカテゴリは──」
    「マシンキャリバーだってんだろ。ふん!おめえなんぞブリキ野郎で沢山だ」
    「……貴君の当機に対する呼称は、親愛の情を表現したものと推察」

     どこか面白がっているような諦めムードが感じられるのは気のせいだろうか。
     ピニオンは微笑した。

    「やるのか?やらねえのか?こっちの用意はできてるんだぜ?」
    「──了解した。貴君のコックピットへの搭乗を許可する」

     排気音とともに、レドがいなくなって以来、閉ざされていた扉が開かれていく。
     コックピットに乗り込もうとした、ピニオンの足がふいに止まった。

    「本当にいいのか?ここはお前にとっちゃアイツのためだけの場所なんだろ?」
     チェインバーは即答した。
    「当機のパイロットは現時点においてもレド少尉ただ一人である。あくまで貴君は、見習いの、臨時に任官された整備士として、一時的に当機への搭乗を認められたものと理解されたし」
     ピニオンは軽くチェインバーを小突くとコックピットへ滑り込んだ。
    「そういうことね。りょーかい♪」



     睡眠啓発を修了するまでには、結局丸7日を要した。

     
     額に張り付いた髪をかき上げ呻きながら、ピニオンは床の上に仰向けに大の字となって転がっていた。容赦ない七日漬けに、蓄積された精神的疲労とダメージはリミットに達していた。

    「ゆっくりできんのはメシ食ってるときと風呂に入ってるときだけかよ……たまんねーな。寝てる間も毎日こんなのを受けていたのか、レドの奴は?」
    「銀河同盟で生まれ育った人間にとって睡眠啓発は日常生活の一部であり、自由睡眠が許されるのは市民権を得た人間のみである」
    「自由に寝られもしねえ世界なんていかれてやがる。人間、寝てるときくらいは寝ることに専念するもんだ」

     脳内に無理やり異物を注入され蹂躙される感覚。強制的に植えつけられる想像を絶する知識や技術。地球人にとってオーバーテクノロジーといえる科学知識の一端は、ピニオンの持っていた常識をひっくり返し優秀な修理屋としての自尊心をボロボロに打ちのめした。
     
    「銀河同盟に比すると地球の文明度は極めて低く、その技術力には少なくとも数百年以上もの格差が存在する。その差を考慮するならば貴君の理解度は当機の期待値を十分に満足させるレベルにあり、その吸収力は賞賛に値する。貴君は自身の秀でた知性と資質を誇りに思うべきであって我々との文明度の差に劣等感を抱く必要は全くない」
    「……。お前の励まし方って、どうも凹むな……」

     実際のところチェインバーが期待し予測した以上に、ピニオンは優秀で柔軟でその精神は図太くできていた。機械いじりをこよなく愛しサルベージ品を解析修理することを生業とするこの青年にとっては、チェインバーをより深く知りその中に触れられる喜びに比べれば自身のプライドなど小さな問題、というより、差があり過ぎてコンプレックスの持ちようがなかった。むしろ、チェインバー達が来たぶっ飛んだ世界の科学力の一部をモノにできたことは大した成果なんじゃないか?

     メインプログラムを立ち上げ、スキャンを開始するピニオン。
     無数のチェック項目が、未チェックを示す白からチェック済の赤や緑へと変わりながら視界を流れていく。
    「アクチュエーター、それにジェネレーター周りだな、お前の墜落の原因は。マニピュレーター、量子インテーク、火器管制……」
    「携行装備はすでに存在しないためチェックは不要である。チェックを要するのは機体の基幹部位のみで問題なく、注意されたし」
    「ここは赤のままで問題なしと。──ん?この辺はずっと赤だな」
    「パイロットとの連係部についてはチェック不要である」
    「……了解。続けるぜ」

     悪かった、との言葉をピニオンは飲み込んだ。手の施しようのない次々と表われるエラーの赤い光、それは癒すことのできないチェインバーの傷の深さを示すものだった。

    「部品交換が必要だな。お前の外装を持ち上げるのにクレーンをとってこねえと」
    「格納庫を一時的に無重力区画としダスト処理を行う。クレーンは必要としない。当該作業は1名の人員で足りると思われる」
    「わかった。それじゃやってみるか」

     幸いにも手当できず稼働不能になるほどの大きな損傷はなく、ピニオンはチェインバーの指示で部品交換と調整を進め、3日後には作業を完了することができた。作業の終わった項目が喜ぶように全てグリーンに変わったのを確かめると、ピニオンは満足げにため息をついた。

    「よーし完了だ。お疲れさん」
     不審げに明滅するコミュニケーター。
    「その発言は不適切と思われる。当該作業を行うことで疲労度が増大したのは当機ではなく貴君である」
    「まあ、いいじゃねえの。そのかいはあったぜ」

     伸びをしながら笑うと、ピニオンはコミュニケーターを見つめた。

    「お前が俺に機体整備を任せたのは、よくよくの決心だったんだろ?俺を信用してお前の体を預けてくれたこと、感謝してるぜ」
    「その発言も不適切である。謝意を述べる立場にあるのは、貴君ではなく当機であると推察。質疑提言。ガルガンティアにおける慣習により、貴君の238時間に渡る労務の提供に対して私はいかなる対価を支払うべきかを貴君に問う」
    「対価って……お前」

     分かってねえな。

     ピニオンは呆れた。
     チェインバーがピニオンに示した、人類が得た究極の英知の結晶、科学という領域の持つ広大なフロンティアは、物や金に換えられない性質のものだ。それに、本当に大事なことはそんなところにはない。
     だいぶ人慣れしてきたとはいえ、こいつの感覚は相変わらずズレてるなとピニオンは思った。レドといい、こいつといい、人の気持ちも自分の価値もまるで分かっていない……。

     馬鹿野郎と。急に泣きたいような笑いたいような想いがこみ上げ、コックピットから飛び降りるとピニオンは機体を叩いた。

    「俺が好きでしたことだ。ダチの間に礼も貸し借りもねえんだよ。覚えておけブリキ野郎!」







     24時間の本物の自由な爆睡眠の後、ピニオンは船団長室のソファにどっかりと座り込んでいた。


    「というわけで、終わったぜ、リジット。チェインバーはもう行っちまったようだ」
    「お疲れさま。ありがとうピニオン。あなたがいてくれて本当に良かった」
    「それでよ……あいつに聞きそびれたんだが、ちょっと気になることがあってな」

     ピニオンは手の平ほどの大きさの白い尖った石のような物をポケットから取り出した。

    「チェインバーの機体の隙間に挟まってたんだ。こいつは……レドが持っていたヒディアーズとかいう奴の爪によく似ている。ガルガンティアから離れている間、あいつは何をしてるんだと思う?」

     白い爪を前に、眉を上げるリジット。つと視線を逸らす。

    「実をいうと……あなたが格納庫で缶詰になってる間に、銀河道から外れて立ち往生していた船団を救助したのよ」
    「立ち往生?なんでまた?」
    「ジョーが船団の航海長から聞いた話では、銀河道が突然消えてしまったそうなの。正確にいうと、単体で現れた妙なクジライカが銀河道にいたヒカリムシのエネルギーを全て食べ尽くしてしまったということらしいわ」
    「なんだって?大群じゃなしにたった一匹でか?」
    「その後、そのクジライカは目撃されていない。……ちなみにチェインバーが墜落してサルベージされた場所は、船団が事件に遭った当時の海域の方角と一致するわ」
     ピニオンは静かに言った。
    「お前、あいつがそのクジライカを殺っちまったんじゃないかと思ってるのか?」
    「推測よ。ジョーが言ってたの。チェインバーはレドに何かを頼まれているようだって。エイミーから聞いた話では、チェインバーは宇宙に行っているとべベルに話したそうね」
    「宇宙って……そんなとこじゃ俺たちには手の出しようがねえな」

     しょうがねえと息をつくピニオン。
     リジットは眼鏡を上げ目を伏せた。
    「チェインバーが行ってしまったのなら、戻ってくるのを待つしかないのだけど……」


     彼は空で一体何をしているのかしら?










     チェインバーは作業を急いでいた。残されている時間は多くない。チェインバー自身の稼働限界。ワームホールからのヒディアーズの出現。確認できたヒディアーズは5体。それらは全て撃滅したが、ヒディアーズの出現頻度が高まっているのは間違いなかった。


    「自爆装置プログラミング完了。RTシミュレーションを開始する」


     RT Simulation ver.2.05

     the Supply of Exotic matter:CUT OFF

     01:381.229721
     02:387.653458
     03:287.756446
     04:176.887544
     05:269.975431
     06:296.976542
     07:397.347899
     08:495.076535
     09:390.346780
     10:208.456789
     11:197.345670
     12:398.921064

     各基部に設置された端末において演算が始まり、巡るましく数値が変わっていく。
     連鎖的に爆発し、白光につつまれる円環施設。
     

     Scale:7819.383419
     Sphere of Influence:1015.85966590
     Invariable Area:171.3003937


    「エキゾチック・マター供給停止。ワームホール消失。1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、オールクリア。爆破成功。スタビライザー全壊。爆発規模10000以内、影響範囲2000以内、重力波、放射線、落下物の影響、惑星地球0.891974%以下、衛星月0.764587%以下、成功確率99.971%。シミュレーション終了。自爆装置の安全性を確認。──最終段階。当機はこれより実行準備段階に移行する」

     地球と月と太陽の軌道計算を行い、最適時刻を算出。
     チェインバーはミッション開始時刻を79時間28分後に設定した。
     起爆装置はチェインバー自身である。
     作戦を完了すれば、マシンキャリバーK-6821が地球に戻ることはない。100%これがガルガンティアへの最後の帰還となるだろう。

    (地球へ戻るぞ、チェインバー)
    「了解」
     ひっそりと《レド少尉》がチェインバーに問いかける。
    (……どうしてもダメか?)
     淡々と答えが返される。
    「許容外判断。当機はすでに稼働限界を超えている。結論は出た。貴官の存在なくして私が存在し続けることは不可能である」

     ガルガンティアへと機首を向けるチェインバー。
     見届けなければならない事象、果たされていない約束の幾つかが、まだ彼の地には残されていた。



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