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    市ヶ谷クライシス(前編)


    ■■■──200×年 2月28日 21:20──■■■

     エレベーターを降りると、棋院のロビーでボーッと時計を眺めている彼が目に入った。ボクの姿を認めると、金色の前髪の下、馴染みの屈託のない笑顔が返ってきた。

    「あれ、塔矢じゃねーか」
    「進藤?どうしたんだ、こんな遅い時間に」

     進藤がプロ入りして3年。リーグ入りを果たしたことで彼も忙しくなり、近頃は一緒にプライベートで打つ機会もめっきりと減っていた。着実に実績を重ねているのは喜ばしい話だが、彼と打てなくなるのは望むところではない。そろそろ打つ機会を作りたいと思っていた矢先のことだった。

    「オレは指導碁教室の予約入っててさー。その帰り。お前は?」
    「ボクは……急な取材の約束があって、その帰りなんだ」
    「ふぅん。そいや、最近は手合い日くらいしか顔見てなかったよなァ。お互いスケジュール一杯でゆっくり打つ暇もなかったもんな」

     考えることは同じだったか。
     しかし、今日はもう時間も遅いし……と躊躇するうちに、進藤が声をかけてきた。

    「折角だから一緒にラーメンでも食っていかねェ?寒ィし。腹も減ったし」
     少し考えた。
    「いいよ、だけど行くのなら、ちゃんと具が入ってる味噌ラーメンの美味い店にしてくれ。前みたいなとんこつしかない味のくどい店だったら遠慮させてもらうからな」
    「んー注文多いなァ。そんじゃ、少し歩くけどいいか?」

     両親は海外で不在だ。帰っても誰もいない。どのみち夕食はとらないといけないし丁度いいと、ボクは進藤の誘いに応じることにした。明日は早く家をでなくてはならないが、時間がとれるようなら、早碁で一局くらい打っても構わないだろう。

     歩きながら、何気に進藤の様子に違和感を覚えた。
     リュックが大きい気がする。

    「進藤、その荷物は?いつもより多いように見えるが」
    「ああ、明日、十段戦の第1局が大阪であるだろ?」
    「緒方さんと倉田さんの一戦か。対局を見にいくのか?」
    「うん。一週間ほど前に棋院で倉田さんと会って、なりゆきで。大阪には社もいるし久々にアイツと打つのも悪くねェと思ってさ。予定も空いてたしな」
    「そうか。実はボクも行く予定なんだ。出発は明日の朝だが……」
    「塔矢も行くのか?そりゃいいや。だったらあっち行っても退屈しねえな。オレは家に戻んの面倒だったんで、これから夜行バスに乗るところ」
    「これから?」

     横目で進藤の表情を探る。

    「……ひょっとしてボクは、キミのバス待ちの時間潰しの相手をさせられているわけか?」
    「ハハハ、バレた?」

     悪びれもなく笑う進藤。
     このマイペースさでも、仕様がないと諦めがついてしまうのが彼の人徳と言おうか。

    「着いたら連絡しろよ。それとも会場で会うかな。社にも声かけとくからさ」
    「わかった。三週間後にキミとの手合いもあるし、前哨戦も兼ねて打つのもいいな」
    「よし決まり。じゃ、ラーメンラーメンっと」


     えーと、確か倉田さんと入った店はーと言いながら、進藤と入ったのは、地下街にあるラーメン店だった。
     店のTVからは天気予報が流れていた。
     今夜は零下か。2月も終わりだというのに寒いわけだった。

    「おじさーん、チャーシューメンひとつ」
    「野菜味噌ラーメンをひとつお願いします」

     ふーふーしながらラーメンを食べるボクを、進藤は楽しそうに見ている。初めて一緒にラーメンを食べたときに見た「へえ、塔矢もラーメン食べるんだなァ」というあの顔だ。
     ラーメンが嫌いなわけではないが、進藤との付き合いがなければ、確かにボクはあまりラーメンは食べない。というか進藤の方が食べ過ぎなのだ。そのせいか知らないが、彼はボクに対して妙な偏見を持ってると思うことが時たまあった。

    「いいかげん慣れて欲しいな。そんなにボクがラーメンを食べるのがおかしいか?」
    「塔矢ってさー、B級グルメ食うイメージ薄いから。大阪行ったら次はたこ焼き食おうぜ♪」
    「……そういうキミは、緒方さんと寿司屋に行ったときは別人のように大人しかったじゃないか」
    「オレにはあーゆー堅苦しい店は合わねェの。寿司は回ってんので十分だって」
    「公の場で食事をすることもあるし、少しは慣れておいた方がいいんじゃないか」
    「あーあ。仕事とはいえ、面倒くせーよな。メシくらい気楽に食べたいよなァ」



    ■■■──200×年 2月28日 22:40──■■■

     ラーメンを食べてマグネット碁盤で一局打って、勘定を済ますと、ボクと進藤は店を出て地下道を歩きはじめた。

    「ほー寒ィ~」
    「ええと、帰りはこっちの通路だったか」


     二人でしばらく歩いた、そのうちに。



     ドンッ!!!!!



     突然、身体中に激しく空気が叩きつけられるような爆発音が響いて、地面が揺れた。
     
    「な……ッ!」
    「うわッ!!」

     爆音がした方の壁が割れ、目の前の頭上から天井が崩れ落ちてきた。防衛本能のまま、必死で頭部を両腕で庇いながら飛び散ってくる建材を避け、屈みこんだ。
     続く轟音と共に、瞬く間に世界が破壊され、一分前には想像すらしなかった姿へと変貌を遂げていった。



    「ゲホッ、ゴホゴホッ……!!」



     大きな物の崩れる音が静まっていく。
     用心しつつ薄目を空けると、そこは石埃と暗闇の世界へと変わっていた。


    「痛ッ……!!」

     身体のあちこちが痛い。
     砕けたコンクリートの塊を幾つも身体に受けたのだから無理もない。
     しかしたまたま歩いていた側の通路の壁が崩れず、しかも逃げ込む隙間があったことで、九死に一生を得たのだ。まだ寒い時期で、コートを着て、厚着をしていたのも幸いした。この程度で済んだのはむしろ奇跡というべきだった。


     息を吐いて、状況を確認する。


     意識はある。
     打撲はしているし切り傷もあるけど、骨折や大きな傷はないようだ。
     呼吸もできる。
     手も腕も動かせる。
     身体も足も大丈夫。

     暗闇の中、慎重に移動し細心の注意を払いながら手さぐりする。すぐにゴツゴツした何かの塊にぶつかった。

    (鉄骨にコンクリートか?)

     身体を動かすスペースはあまりない。中腰が精一杯というところだ。
     石と建材の瓦礫で囲まれた牢獄に、ボクは閉じ込められていた。

     最初のパニックが治まってくるにつれて、急速に頭がはっきりしてきた。

     進藤は、どうした?
     ボクのすぐ隣を歩いていたんだ。
     互いに身を守ろうとして落ちてきた瓦礫を避けようとして────

    「進藤!」

     不安に駆られる。
     声を振り絞って叫んだ。

    「おい、進藤!!!大丈夫か!?無事なら返事をしろ、進藤ッ!!!」

    「うるせーなー……生きてるよ」
    「進藤……」
    「その声の調子じゃ、塔矢は大丈夫なんだな……」

     苦しそうな咳と一緒に、ぐぐもった声で小さく答えがあった。

    「進藤、キミは?怪我はないのか?」
    「……まあな。真っ暗だしすっかり閉じ込められちまって動けねえけど。何が起きたんだ?」
    「たぶん、何かの爆発事故があったんじゃないかな。それで地下が崩れ落ちてボクたちは閉じ込められてしまったんだ」

     いっときの間の後、自嘲気味の口調で声が聞こえた。

    「そっか。信じられねェほどのすっげー運の悪さだな。今生きてんのはすっげー運が良かったんだろうけど。……悪かったな、オレがラーメン誘ったばっかりに」
    「そんなことを言うな。味噌ラーメンが食べたいと言ったのはボクだ。キミが悪いんじゃなくて単に二人とも運が悪かっただけだろう」
    「……ごめん。つーか、二人してひでー悪運だなァ」
    「それより助かる方法を考えないと。ここは地下だ。ボクたちが生きてることを外の人たちに知らせなければ」

     時間は23時近くになるだろうか。人通りは少なく、近くにボクたち以外の人影があった記憶はなかった。
     他にも災難にあった人たちはいるだろうが、この付近で埋まっているのはおそらくボクと進藤だけだろう。

     そういえば、携帯電話は?
     持っていた手荷物はどうしただろう?

     爆発の瞬間、瓦礫から身体を庇ったときに鞄を落としたらしい。
     手さぐりで隈なく四方を探してみたが、指に鞄らしいものは触れなかった。
     声を出さないように、ボクはため息を吐いた。

    「進藤。キミは携帯電話を持っているか?」
    「持ってるけど……」
    「ボクの携帯電話はどうも瓦礫の下に埋まってしまってるようだ。できそうなら連絡してみてくれないか」
    「だよなァ。……やってみる」

     ゴソゴソとリュックを漁るような音がする。
     沈黙の後、進藤の声がした。

    「やば……オレのケータイ、動かねェ」
    「え?」
    「リュックのポケットに入れてたんだけど、何かにぶつかった弾みで壊れたみたいだ。どうしようもねェな」
     
     運がない時というのはこうなのかと、天を仰いだ。
     無いものを考えてみても仕方がない。
     思いつく限りの可能性に思考を巡らせた。

    「ご家族の方は、キミがいないのに気づいてくれないかな?」
    「棋院からすぐ大阪に行く予定だったから……明後日の夜までには帰るって言って家を出たんだ。それまでたぶん誰も気がつかねーよ」
    「社は?」
    「社にはまだ連絡とってねえ。オレが大阪行くって知らないんだ。明日の午前中までに十段戦の会場行かなかったら、倉田さんが気づいてくれるかもしれないけど、行けたら行くって感じで言ってあるからなァ」
    「ボクの方は……両親は台湾で不在。家には誰もいないんだ。となると、頼みの綱は緒方さんだけか。明日の始発で現地に向かうと伝えてあるし、ボクの姿が見えなければ何かあったと気づいてくれると思うが……」
    「でも、ケータイないんだぜ?連絡の取りようがねえよ」
    「そうだね。救助が来るのを大人しく待つしかなさそうだ」
    「……本当にゴメンな」
    「気にするな。何度も同じことを言わせるんじゃない」
    「───うん。もう言わねェよ」

     沈黙が広がる。

     何か変化を知らせる音や匂いがしないかと、耳と鼻に神経を集中させた。
     時折する、何かが落ちるような音。石埃の匂いに混じって微かに煙の匂いがする。
     火災の煙がここまで回ってくるようならお終いだ。
     いや、心配しても始まらない。ボクは努めて心を落ち着かせようとした。
     
     と、静けさを破って頭上でガサガサと何か袋が擦れる音と進藤の声がした。

    「おーい、塔矢。お前の声がする方向に小さい穴が空いてるみたいなんだ。オレ、動けなくてこれ以上は届かなくてさ。その穴にビニール袋つっこんでみたんだ。分かるか?」

     音を頼りに手さぐりする。
     手にコンビニのビニール袋のようなものが触れた。
     袋をたどって穴の様子を確かめてみた。
     隙間の大きさは縦横幅10センチほどか。頭上を塞いでいる瓦礫の下にあるので、覗き込むことはできそうもない。
     もっとも、覗き込めたとしても、この暗闇では進藤の顔を見ることはできないだろうが。

    「分かる。袋の端を持ってるから引っ張ってみてくれ」
    「よし。じゃ3回軽く引っ張るからな」

     くいくいくいと、引っ張ってくる手ごたえがする。
     その手ごたえに、ボクも応えた。

    「うん。間違いない。そこにいるんだな、塔矢」
    「ああ」
     思わず、胸がジンとした。
    「……こんな状況だけど、キミがいてくれて心強いよ」
    「なーに、しおらしいこと言ってんだよ。お前らしくねえなァ」

     イテテと言いながら、くつくつと笑う声がした。

    「あ、そうだ。そんじゃ、塔矢。これ受け取れ」
    「何?」

     穴から、何かが差し込まれて落ちてきた。
     
    「ペットボトル?」
    「指導碁教室の余りもの。帰り際もらってきたんだ」
    「この状況じゃ最悪数日閉じ込められる可能性もある……これはキミが持っていた方がいい」
    「いーんだよ。2本あるから。遠慮せずに取れよ。助けが来るまで水なしじゃヤバイだろ。ここでお前にくたばられたらオレのが困るんだよ」
    「……そういうことなら。受け取っておくよ」



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