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    軍師の遺言 4

     
     ~マッシュ・シルバーバーグ 最後の書簡より~

     解放軍の仲間たちよ。
     今これが読まれているということは、解放軍は勝利し、圧政から解放されたいという我ら積年の願いが成就したのだと思う。
     戦いに勝利した後、ランどのを失っていたら、求心力をなくした解放軍が何処へ向かうのか。もはやこれ以上、この国の行く末を見届けることができない私は、最後の願いをしたため、ここに遺すことにした。

     なぜ、我らは戦ったのか?

     帝国の打倒や復讐ではなく。
     あるがままの姿で、かけがえのない家族や友人ら大切な者たちと幸せになれる国を創るために、我らの戦いはあった。

     失われた命の数々についての、いいわけはしない。私もラン殿も、どんなに早く闘いを終わらせたかったことか。ただ言えるのは、帝国を倒したとしても、この国に真の自由と平和がもたらされなければ、流された血と願いは行き場を失ってしまうのだ。

     異なる境遇にある者であっても、互いの幸せを願えば、理解し合い共に生きることができると、私は信じる。
     ついに私が見ることの叶わなかった新しい国に生きる、すべての人々の幸を切に願う。

                          マッシュ・シルバーバーグ


     その日、空は晴れ渡っていた。

     昨日までは廃墟のようであった城下町は、今や活気に満ち溢れ、様々な人々でごった返していた。広場は急拵えの議場と様変わりし、石畳の上には、記念すべき会合を行なうのに相応しく、縁台や椅子や敷布などが必要な配慮をもって調えられていた。

     解放軍の将に混じって、各地の町や村や種族の長たちの姿があったが、それはもっぱらレパントやウォーレン、ヨシュアの采配によるものだった。
    「混乱に乗じて、都市同盟がいつ攻めてくるとも限らん」
     我らの闘いはまだ終わってはいない。
     早く新しい指導者を選び、国を建て直さなければ。
     解放軍の勝利と皇帝崩御の知らせは、竜騎士たちによって彼方此方の町や村に伝えられ、新しい国の形を見定めようと、各地の長たちが竜の背に乗ってグレッグミンスターへとやってきたのだった。



     新たな指導者の姿は、すでに長たちの心の内にある……そのはずだった。
     だが、予定の時刻になっても、ついに彼はその姿を見せなかった。
     女戦士の手にある、またたきの鏡とイアリングを目にし、レパントの表情は沈んだ。
    「これは、解放軍のリーダーが持つべき品だったはずだ。これを置いてゆかれたということは──」
     ヨシュアが淡々と言った。
    「おそらくラン殿には何か別の道が指し示されていたのだろう。背負わねばならぬ他の荷があるのだ。あの子は、いつも、なすべきことから逃げようとはしなかった」

     指導者を失い、混乱しかかった場を治めたのは、今は亡き軍師の書簡だった。
     歩むべき道はひとつ。
     レパントは、頭を上げた。
     たとえ誰を失おうとも、残された者は前に進まなければならない。
     激動にあった半生のうちに幾多の正念場をくぐり抜けてきた老練な商人でもある男は、今のこの瞬間に、何が必要で大切なのかをよく心得ていた。

     周囲が落ち着きを取り戻したところで、グリフィスが現実的な問いを投げかけた。
    「当面の問題としてだ。ランでなければ、指導者には誰がなる?」

     互いの顔が見交され、長たちをはじめ居合す人々の間で、議論が再開される。

    「これからは解放軍も帝国軍もない。双方に偏見なく事にあたれる人でないと」
    「将軍がたのどなたかでは?」
    「謹んでご辞退申し上げますよ。国や民を護るのは将としての務めと思いますし、助力は惜しみませんが」
     ミルイヒがいうと、他の将軍らも頷いた。

    「解放軍の意志を継ぐことができる」
    「雑多な集まりなんだしよ。それぞれの事情を解かってくれないと」
    「優柔不断な意気地なしに用はない。勇気と胆力がなけりゃ」
    「都市同盟の動きも気になります。交渉事に強く、彼らの策謀にも対抗できるだけの知力があってほしいですねぇ」
    「そこそこ知名度がないと、みな納得しないんじゃない?」
    「それなら――」

     口を開こうとしたレパントに、幾つかの視線が集中した。

     ロニー・ベルが、ポンと手を打ち、言った。
    「それなら、公平に見てレパントさんは、どうだい?」

     予想外の展開に、日頃あまり動揺を見せない男が珍しくたじろいだ。
     畳みかけるように、其処此処で声があがる。

    「そうだな」
    「うむ。妥当な人選のように思えるが」
    「ランがいないんじゃ仕方ねえ。レパントさんになら任せてもいいぜ。ちっとばかり煙たいけどな」
    「建国の指揮など、わしらの手にはあまる」
    「俺はかまわんよ」
    「ちょっと待て。他にもっと相応しい者がいるのではないか。ウォーレン殿や……」

     レパントから指名された北の大富豪は可笑しそうに口の端を上げた。
    「マッシュ殿亡き今となれば、解放軍のあり様を最もよく解かっておられるのは、貴殿ではありませんか?私としても、他に適任者がいると解かっているのに引き受けるわけにはいきませんしね」
    「では、グリフィス殿やヨシュア殿は?」
     北の守将はすまし顔で答えた。
    「俺は面倒がりなんでね。遠慮させてもらいたい」
    「わたしもウォーレン殿と同じ意見ですな。レパント殿」
     ヨシュアが微笑んで言った。
    「あなたなら、適任と思いますが」
     採決を促す竜洞騎士団長の問いかけに、広場から賛同の声があがった。

    「そこまで言われるのなら……解かった。引き受けるとしよう」
     だが、ランどのが帰ってこられたら、話は別ですぞと、コウアンの長は威厳を込めて念を押した。


     様子をうかがいつつ、テンプルトンが声を上げた。
    「大統領!さっそくだけど、この国の名前をつけてよ。帝国はなくなったし、地図に新しい国名を書かなきゃならないんだ」
     レパントが頷いた。
    「そうだな。提案はあるか?」

     ひとしきり意見が飛び交った後、うずうずと辺りを見回していたクロンが大きく手を上げた。
     少年の顔は期待に満ちていた。
    「僕はいろんな所に行くたびに、その場所を案内していたけどね。一度くらいは自分でつけた場所の名前を叫んでみたかったんだ」
    「考えがあるなら、遠慮はいらん」
     クロンの帽子にくしゃりと手を置き、タイ・ホーが笑った。
    「ハハハ、言ってみろ。妙な名前なら、許さんぞ?」
     門番の少年は、身をそらし、眼を輝かせて言葉を続けた。

    「トラン共和国っていうのは、どう?ハチノス城はトラン湖の真ん中にあったでしょう?どこにいても、トランのお城にいる気分になれる。ランと解放軍を忘れないように」

     アンジーがニヤリと笑った。
    「悪くないな」
     バルカスが笑いながらクロンの背をどついた。勢いよく少年を担ぎあげると肩に乗せる。
    「それじゃ、言ってみるか?」

     クロンが「トラン共和国!」と叫ぶと、再び賛同の拍手と歓声が口笛とともに大きく沸き起こった。


     広場に笑顔が溢れる様を見守っていたクレオは、やがて遠く空を仰ぎ見た。
     爽やかな風が頬をよぎる。
     心の中で、この空の下、同じ風を感じているだろう少年に呼びかけてみた。

     聞こえますか?
     見えますか?ランさま。
     あなたの力で、新しい国ができたのですよ――。

     自由と友愛とを旗印にした、新しい国が。



     一方、広場が見渡せる尖塔の一つにて――。
     風にマントをなびかせ、風がもたらす歓呼の声を聞きながら、独り広場の様を見つめる黒い人影があった。

    「ふむ。この国は闘いと策謀の中に生きる者の手など、当分は必要としないようだな」
     新しい国と指導者の誕生を祝う風景を他所事のように見下ろしながら、レオン・シルバーバーグはひとりごちた。

    「マッシュの奴め。都市同盟が動くのも、あれの思惑のうちか。多少は雨でも降った方が、地も固まるというものだ。外部に大きな敵があれば、却って内部の結束は強まるだろうからな」

     暖かい陽射しに溢れた広場とは対照的に、陰になった塔の一角には寒々とした空気が流れていた。
    「世の中は常に移ろいゆくものだ。人々の記憶は儚く、心は変わりやすい。永遠に続く幸せなどというものはありはしない」

     平和であった国にも、いつか争乱の日々が訪れるように。
     だが。

     脳裏に、肩を抱き合い微笑みあう兄妹の姿が閃いた。
    (オデッサ。そしてマッシュよ)
     伝説の軍師は踵を返し、広場に背を向けた。

     この一時だけは、祝福しようか。
     生まれたばかりの、この国の希望に満ちた未来を。


     レパントが「トラン共和国」の建国を宣言すると、いっそう嵐のような歓声が湧きあがった。



     『解放戦争』として後の世に伝えられた戦いは、こうして幕を閉じた。
     かつては「赤月帝国」と呼ばれ、「トラン共和国」として生まれ変わったこの地が、稀にみる団結力を誇る強国として近隣諸国へその名を轟かせるのは、それから数年後のことである。


     そして、人々が往きては去り、街々がその姿を変え。
     月日は移ろい、広がる空の遥か遠く──。

     いつしか伝説の舞台となった、多くの勇者たちが集った地では。
     青空の下、トランの城がその雄壮な影を、ゆるやかな湖面に映し出していた。


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