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    軍師の遺言 2

     
     解放軍が突入した際には、廃墟と見紛うほど荒れ果てていたグレッグミンスターの街並み。
     戦いが鎮まり、街にも徐々に生気の蘇る兆しが見えた頃には、異形の魔兵たちは霧の如く姿を消し、妖気から開放された空の雲間からは、太陽が本来の輝きを取り戻そうとしていた。



     圧政者たちの最期の知らせは、野火のように広まっていった。
     レパントらが解放軍の勝利を宣言し、気勢を上げる一方で、ミルイヒら元帝国の将軍らは皇帝の訃報を発し、闘い続ける帝国兵に投降を促そうと奔走していた。

     町中の屋敷に仮の陣を構えるべく、四人の将軍が姿を現すと、街の人々は歓声をあげて彼らを迎えいれた。

     ソニア・シューレンはぽつりと言った。

    「不思議なものだな。解放軍はこの町を戦場にしてしまったというのに。なぜだ?なぜ、彼らは解放軍を受け容れられるのだ?」
    「解放軍がここへ来たのは侵略や略奪のためではないと、彼らにも解かるのだろう。それだけ、バルバロッサ様から人の心が離れてしまっていたともいえようが」

     カシム・ハジルはかすかに眉をあげたのみだった。
     かつては帝王の右腕であった男の表情に、喜びの色は浮かばなかった。
    「家族や国を思う気持ちは誰しも変わらぬ。我らも、帝国軍の兵士らも」

     喜びざわめく声を聞きながら、老将の眼には、今は遠くなった別の時、別の人々が映されていた。
    「継承戦争の頃を思い出すな。バルバロッサさまが勝利し、この地に平和をもたらした時も、兵士らは、民は……こんなふうに我らを出迎えたものだ」

     あの頃は、傍にテオたちもいた……。

     口元に微笑みを浮かべ、ミルイヒ・オッペンハイマーは優しく言った。
    「ソニア殿。貴女にも覚えがあるはずだ。かつてこの地を護る将として、私たちは必要とされていた」

     クワンダ・ロスマンは、剣の柄を握りしめた。
    「バルバロッサさまより賜りしこの剣は、この国を護れというお言葉と共にいただいたものだ。彼の御方はすでに亡くとも、私の中でその御心が死すことはない」

     我らの使命と誇りはここにある。
     護るべきこの大地とそこに暮らす人々の上に。



     運命の歯車が大きく動いた、長い一日が終わろうとしていた。
     そのころ、グレッグミンスター郊外に構えられた本陣では、狼煙のように立ち昇る炊き出しの煙を目印に、解放軍の兵士らが続々と集まりつつあった。
     互いの無事を喜びあう者、いまだ帰らぬ人を待つ者も。それぞれが手当を受けたり食事をしたりしながら、長かった戦いの傷や疲れを癒そうとしていた。
     明日への希望と不安を抱えながら。
     ──そして、ついに。


     クロミミの耳がぴくんと立ち、ゴンが微かな風に鼻をうごめかせた。
     想い人の肩に寄り添い夕日を見ていたシルビナが、ふいに頭を上げ、遠く眼を凝らす。
    「見て、キルキス!」
     ミナを抱えたロッテが振り向き、相棒を放り出すとそのまま三つの影に向かって駆け出した。
     興奮したクロンが小さな体一杯の力を込めて叫んだ。その声は野営地中を駆け抜け、本営にまで響き渡った。

    「帰ってきた!ランが帰ってきたよ!!」



     帰還したリーダーを仲間たちは熱狂的に迎え入れた。
     ランの肩を背を叩く者、手を握る者、飛びつくように抱きしめる者。

    (生きていてくれた)
     仲間たちにもみくちゃにされ、馴染みの顔ぶれを見渡し一人また一人と安否を確認するたびに、ランの胸は熱くなった。

     喜びを隠し切れない様子で、レパントは誇らしげに少年をしっかりと抱きしめた。
    「ついに、やり遂げましたな、ラン殿」

     顔を上げれば、クレオとパーンの暖かな眼差しがあった。女戦士はそっと涙を拭った。
    「ランさま、よくご無事で……」
     ――だが。

     強まる違和感を抱え、ランは周りを見回した。
     誰かがいなかった。

    「ビクトールとフリックは?戻ってきた?」
    「いいや。まだだよ」

    ランはあるはずの顔、いつも傍にあった幾つかの姿を求めて、天幕のなか視線をさまよわせた。求める人の姿はなく、そのうちに少年の目は、ただひとり顔を背け俯く少女の姿にくぎづけとなった。
     昏い予感に、みぞおちが冷えてゆく感覚だけが、止めようもなくあった。

    「マッシュは……マッシュはどこにいるの?」
     二人の視線が交錯し、心臓の鼓動だけが聞こえた後、答えがあった。

    「マッシュ先生は、亡くなられました」


     ランは押し寄せる虚脱感に、目を閉じた。
     右腕に走る激痛。今はその意味が解かっていた。
     願いは断ち切られ、奇妙な静けさのなか、頭の芯の何処か遠いところで、少年はその声を聞いた。
     白くぼやけた世界で、誰かが手を差し伸べ何かを言おうとしていたが、声は彼の耳には届かなかった。
     マッシュ、フリック、ビクトール……
     埋められることのない、彼らがいたはずのその空間。


     暗黒が少年を包み込んだ。
     縋るものもなく、張り詰めた糸が切れたように、ランはレパントの腕の中に崩れ落ちた。


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