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    軍師の遺言 1

     
     過ぎし日は、赤月帝国の中心に在り、揺るぎなき力と輝きに満ちていた白亜の城。
     威風を誇っていたその城は支えであった主を喪い、まさに今、陥ちようとしていた。



     白煙と、ものの焼ける臭いが立ちこめる通路。
     倒壊した彫刻や装飾品が散乱する回廊や広間の床。
     かつては壮麗であった城内は見る影もなく。火の手があがりはじめた其処此処では、轟音とともに大理石の破片がなおも頭上から降り続いていた。

     ときおり耳を打つ、悲鳴と怒号。
     混沌の坩堝と化した喧騒の最中にあって――。


     解放軍の戦士たちは、城から脱出しようと先を急いでいた。
     城の最深部から出口へと続く長い通路を抜け切るのは、もはや時間との競争となっていたが、戦いはいまだ終わる気配を見せず。
     追っ手を振り切ったと、安堵するのも束の間の事。

    (これで打ち止め、ってわけにゃいかないか)
     またもや眼に狂気の光を宿した帝国兵が現れたのを視界の隅に捕らえると、ビクトールは胸のうちで溜息をついた。

    「忠義を貫くのは結構だが、こっちも言いなりに死ぬわけにはいかないんでね」
    「無用な血は流したくないんだが、しょうがねえ」

     前衛では、ビクトールとフリックが肩を並べて血路を開く。
     星辰剣が唸り、青いマントが翻る度に、帝国兵が絶叫をあげ倒れていく。
     後衛には、大刀を手にした戦士と、援護の風を送る少年魔術師が控えていた。
     ハンフリーはリーダーの傍らを離れようとはせず、黙々とその刀を振るい続けていた。

     ランの額には冷たい汗が浮かんでいた。発動した紋章の影響だろうか。黄金竜との戦いで極度に疲労しきった身体と反射神経は、持ち主の思うように機能しなくなっていた。

     斬りかかってきた近衛兵を必死でやり過ごす、その直後に足がもつれた。
     間髪を容れずルックのロッドが閃き、近衛兵が突き倒される。とっさにハンフリーが倒れかかった少年の体を受けとめた。
    「おい、大丈夫か!」
     その様を目の端に捉え、目の前にいた最後の敵兵を斬り伏せると、ビクトールが叫んだ。

     ハンフリーに肩を支えられた少年は、それでも気力を振り絞り頷いてみせた。
     四つの視線が、いっせいにリーダーへと向けられた。

     容赦なく、鋭い叫び声が、再び通路に響き渡る。
    「いたぞ!解放軍の奴らだ!」
    「ちッ。またかよ」
     ビクトールは大きく息をつき、フリックは新手の敵に備え剣を拭った。
     さらに近衛兵の一団が迫ってくるのを認め、二人は仲間たちを後背に守るように、後方へと進み出た。
     ビクトールは「頼む」とフリックへ眼で合図を送ると、後を振り向き怒鳴った。

    「ここは俺たちに任せろ。ランを連れて先に行け!」
     促すように首を一振りし、ランに頷きかけると、ビクトールは敵兵へと向き直った。
    (コイツを死なせるわけにはいかない)
    「忘れるな。ラン!お前はこの国に必要な人間なんだからな!」

    「だめだ、ビクトール!」
     ハンフリーに肩を預けたまま、それでも少年は必死の表情で叫んだ。
    「二人を置いて先になんていけないよ」

     これ以上、もう誰も失いたくはない。
     僕も戦う。たとえ……

    「紋章は使うな」
     フリックの手が、挙がりかけたランの右手を受け止め、握り締めた。もう一方の手が額にあてられ前髪をかき上げる。
     不安と苦痛に揺れる瞳が、覗き込まれた。

    「安心しろ。ビクトールの奴と、必ず後を追いかけるから。だから、お前は行くんだ」
     今、お前をここで死なせたら、オデッサに顔向けできないからなと笑みがかえった。

     ルックが後押しするように言った。
    「行こう。今のランは、戦力というより足手まといだよ」

     少年魔術師の歯に衣着せぬ物言いに、フリックは苦笑した。
    「相変わらずの言い草だな、お前は。しかし、その良い性格も今度ばかりは頼りにさせてもらうぜ」
     ルックとハンフリーの二人を、交互に見やる。

     ランを頼む。

     ルックはフリックを見つめ、懐から一つの珠を取り出すと、放ってよこした。
    「二人までなら使えるよ。有効範囲は3ヤード」
    「これは?」

     珠を受け取ったフリックが訝しげに口を開くより先に、数人の近衛兵が斬りかかってきた。
     ビクトールはすでに応戦しはじめていた。
     息を整えると、振り向きざまオデッサを構える。
     ビクトールが後退しつつ、叫んだ。
    「早く行け!城が崩れ落ちるまで、あまり時間がない!」

     ハンフリーは無言でランに当て身をくらわすと、少年の身体を軽々と担ぎあげ、フリックに頷きかけると振り向くことなく走り出した。
     風の紋章が光輝き、敵陣へと一陣の風が吹きぬけた。
    「眠りの風よ――」
     眩暈を起こし次々と膝をつく近衛兵たちを尻目に、風使いは軽やかに身を翻してハンフリーの後を追う。

     残された二人の戦士は、この先は一歩も通すまいという決意で、力の限りその剣を振るい続けていた。
     息つく間に、背中越しに言葉を交わす。

    「俺たちも死ぬにはまだ早いからなッ」
    「そうだな。オデッサに逢うのは、俺がもっと相応しい男になってからにしよう」
    「いくぞ、星辰剣!なまくらになるなよ!」
    「まったく、人遣いの荒い」

     いつ果てるとも知れぬ死闘は続く。
     激しさを増す剣戟の音は、そのうち、天井が落ちゆく轟音にかき消された。


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