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    前夜

     
     薄蒼い闇の中。男はぱちりと目を開いた。
     床についた時には活気に満ちていた城内は、いつしか夜の静寂に支配されていた。

    (そろそろ交替の時間だな)

     剣を手に取り身支度をすると、最上階にある城の主の一室へと向かう。
     扉の前には二人の衛兵が、彫像の如く、ひっそりと佇んでいた。
     青いマントの戦士に眼が向けられると、背筋が伸ばされ、敬礼が返された。
    「フリックだ。交替するぞ」

     名のりをあげて中に入ると、クレオがシーッと人差し指を唇にあて、こちらに向かって手を振るのがみえた。
    「何やってんだ、お前たち」

     見下ろせば、部屋の主はクレオの膝を枕にぐっすりと眠りこけている。
     酒壺を脇に杯をあげ、ニヤリと見上げた戦士を、フリックは呆れたように見やった。

    「おい。明日は出陣だっていうのに」
    「明日からは戦だから、なんだがな」

     後任がやって来たのを見てとり、クレオは少年を起こさないよう優しく毛布を掛け直すと、そろりと立ちあがった。

    「それじゃ、後はよろしく頼むわね」
    「ああ。ごくろうさん」
    「歯は磨いて寝るのよ。飲みすぎてお腹こわさないように」
     ビクトールは頭を掻いた。
    「ご心配、ありがとうよ」

     悪戯っぽい笑みを浮かべひとつウィンクすると、女戦士は男たちを残し部屋を出ていった。クレオの姿が見えなくなると、ビクトールはフリックにも杯を手渡し酒壷を傾げた。
     フリックは盃をうろん気に見やった。
    「護衛中だってのに。酔ってるうちに帝都の魔女でもきたらどうするつもりだ」
    「そうかたいこと言うなって」

     護衛するにしても、だだっぴろい部屋だぜ。ランのやつが嫌がるのも無理ないなと、ビクトールは辺りを見まわした。
     一輪差しに生けられた薔薇の花をのぞけば、目に映るのは余分な飾りのひとつもない実用的な調度品ばかり。
     毛布にくるまりひたすらに眠る少年の姿は、必要以上に広い空間の中で、戦士たちの眼に小さく映った。

    「何か変わったことはあったか?」
    「いいや。特になかった。二時にパーンが四時にカイ師匠が来る。それまでは、俺たち二人さ」

     結構長い時間だしな。緊張しっ放しだと疲れるぜと、年かさの戦士はひとつ伸びをした。一見、寛いでいるように見えるが、ビクトールの剣は、いつでも抜けるようすぐ傍らに置いてある。それに倣うと、フリックは剣を手にし床に座りなおした。

     遠くから、午前0時を告げる兵営の鐘の音が聞こえてきた。



     ちびちびと杯をなめながら、ビクトールは少年をしみじみと見やった。

    「ランが解放軍の指導者になってから、随分たってしまったな。……思えば遠くに来たもんだ。グレミオが死んだ時、こいつはもうリーダーなんてやれないんじゃないかと思ったものだが」
    「そうだな。よく立ち直ったと思う」

     フリックは、ランから目を逸らすと、満たされた杯を凝視した。

    「なあ、ビクトール」
    「ん?」
    「俺は、ランに厳しすぎたろうか」
    「……?」

     目をあげて相手の方を見る。
     窓から差しこむ薄い星の光が、フリックの頬を白く照らし出していた。

    「お前のいない間に、今度は……ランの親友だったと聞いたが……テッドという少年が死んだ話は聞いたか?」
    「……ああ。クレオから、聞いた」
    「俺は、その場にいたんだ」

     脳裏に蘇えるのは、シーク谷の惨劇。俺はただ見ていた。
     霧散していく命を止めようもなく、声を嗄らして叫び、ひたすらに親友の身体をかき抱いた少年の姿を。
     大切な者を、どうすることもできずに目の前で失う気持ちってのは、どんなだろうな?と、乾いた声が続いた。

     グレミオが死んだすぐ後のことだった。
     戦を前に気力をなくしていたあいつに、俺は言ったんだ。
     勝てる戦に負けるのは、リーダーが判断を誤るからだ。
     お前には、人を動かすだけの力がある。
     だから、オデッサは、お前を選んだ。俺も、それを信じた。
     だから、俺たちは此処にいるというのに。
     オデッサの目は節穴だったというのか?彼女の死をお前は無駄にするのか?

     青いマント姿がうなだれた。

     あの時、激情に任せて放った言葉。
     あいつ、後悔すると思ったんだ。
     力を尽くさなかったことで、誰かを失ったならば。
     だから、追い詰めると解かっていて言った。
     あいつのためでもあると思って。

     フリックはまだ幼さの残る少年の顔を見つめた。

    「俺たちの望み通り、ランはトラン解放軍のリーダーとして立派にやっているというのにな」
     なぜだろう。
     今になって、そんなあいつの姿を見るのが辛いなどと思うのは――。

     グレミオなら、無理するなと言ってやれただろうに。
    (それでこそ、俺たちのリーダーだぜ)
     言いたかった言葉は、それとは違う気がするのに。
     けれど、そうとしか言えなかった。俺には。

     杯が一息にほされる。
     フリックは顔をしかめると咳き込みはじめた。
    「な、なんだこれは!」
    「葡萄ジュース」
     むせ返る相棒を尻目に、ビクトールは笑って両手で二つの酒壷を振ってみせた。

    「静かにしないと、起きちまうぞ?あー。水にするか?」
     フリックがぼそり呟く。
    「……水盃か」
    「縁起でもねェ。仕事中なんだから仕方がねえだろ。酒だと思って飲むんだよ。甘すぎるんなら水割りにしろ」
    「ジュースの水割りかよ。俺は遠慮するぜ」

     ビクトールは空になった杯に再びジュースを注いだ。
     ついで水を混ぜる。
    「命ってやつは、預かるより預ける方が楽だからな。何万もの命を預かる重み……それと」
     少年の固く握り締められた右手に眼が向けられた。
    「真の紋章の重みも、かな」

     寝られなくもなるってもんだぜ。

     フリックの口が言い難そうに開かれた。
    「ソウルイーターってやつは、主の身の回りにある命を喰らって成長するらしいな。テッドが言っていた。ランの父親……テオ将軍もグレミオも……そしてオデッサが死んだのも、ソウルイーターのせいかもしれないと」
    「お前は、オデッサが死んだのは、ランの紋章のせいだと思うのか?」
     一瞬の間の後、ゆっくりと頭が横に振られた。
    「いいや。あいつは、紋章の呪いに振り回されるようなひとじゃなかったと、俺は思っている。オデッサはいつも自分の生き方は自分で決めていたからな」

     それに、俺に何がいえる?最期の場にいることすらできなかったこの俺に。

     ビクトールがぼんやりと言った。
    「俺もよ――肝心な時、そばにいてやれなかった口惜しさなら解かるんだが。紋章の呪いがあろうがなかろうが。生きているうちにゃ人間誰しも、大事な何かを失くしちまうことはあるんだろうしな」

     愛する者と別れるさだめ。
     ソウルイーターのそれを呪いというなら。
     人は、誰だって呪われているんじゃないか。

     水を払うかのように頭を振るビクトールを、フリックは物言いたげに眺めていたが、やがてその眼差しが奇妙に和らいだ。
    「前はオデッサを護り抜いて、解放軍が帝国を倒したら、戦士の儀式は終わると思っていたんだがな」

     そして、闘い終われば、愛する女と一緒に故郷へ帰るのだと。
     今となっては、叶わぬ夢の残滓。
     剣を捨てようかと思ったこともあったが、捨てられなかったよと、フリックは微笑んだ。

     ビクトールは軽い調子で訊ねた。
    「今はどうなんだよ」
    「そうだな。とりあえず、今は帝国軍と戦うと決めたからな」
     誰もが自由に生きられる世界のために。
     彼女の志のために戦っているとき、あのひとが傍にいてくれる気がする、とは口に出しては言えないことだが。

     フリックは剣の柄を握り締めた。
    「この剣の名に賭けて、俺は今度こそ護る」
    「オデッサの遺志を継ぐ者をか?」
     そうだ、と頷き、フリックはランの方を顧みた。
     ビクトールの眉根が寄せられた。

    「でもまあ、あまり気負わずにいこうぜ。護るのはいいが、死にでもしたら……」
    「フフフ。そしたらコイツ、またぞろ気に病むだろうなあ」
     悠然とした笑みが返った。
    「勝手に殺すなよ。死ぬには、まだ早いぜ。当然、生き抜くなら諸共に決まっているさ」
    「おお!そうこなくっちゃ」

     戦友の笑顔を眺めながら、ビクトールは思い出していた。
     寝つく間際に、ランの口からこぼれ出た、少年のただひとつの願いを。

     みんな、僕を置いていかないで。

    「さてと。そろそろ寝床に入れてやるとするか」
     起きてりゃ子供扱いするなって、怒るだろうが。
     ビクトールは、少年の眼を覚まさないよう慎重にその体を抱え上げると、軽く揺すりあげるようにした。
    「ふうむ。思ったより軽いんだな。いくら紋章のせいで体は成長しないとはいえ。ちゃんと食ってんのか?もちっと筋肉つけないと」
    「筋肉ね。俺は何も言わないでおく」

     フリックは苦笑した。
     二組の眼差しが、今この瞬間は穏やかな寝顔に注がれた。

     真の紋章を持つ者を待ち受ける長く果てしない孤独な道中の、このひとときが束の間の安らぎであったとしても。
     ――彼の行く末を、見届けることはできずとも。


     窓から見上げれば、夜空には雲ひとつなく。
     満天には、幾多の星たちが燦然と輝いていた。


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