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    無題3

     
     昼休み。
     屋上にあった木箱に背を預け腰を下ろすと、速水は流れる雲を眺めていた。

    「ほらよ」
     ぶっきらぼうな声とともに、目の前にコーラの缶が現れる。
     仰ぎ見れば、頭上から見下ろす滝川陽平の丸顔があった。
     取れよ、という仕草に、反射的に速水は手を伸ばし缶を受け取った。

    「えっと、ありがとう」
    「お前、あんまし無理すんなよな」

     少年は言葉を捜している様子でしばらく躊躇っていたが、速水の背をひとつ小突くとそのままとっとと階段を降りていってしまった。
     彼なりの気遣いに気持ちが和らぐのを覚えると、速水はまた空を見上げた。

     滝川はおそらく気にしているのだろう。
     三日前の戦いの後、クラスメイト達と速水との間に薄いベールのような隙が生じているのを、滝川は敏感に感じ取っているのだった。
     かつて少年がそうだったように。
     思えば、速水とより近しい者だったからこそ、彼の変化に滝川はいち早く反応したといえるのかもしれなかった。

     ぷしゅッ。

     缶の蓋を開ける。
     スチールの冷えた感触を手の平で味わいながら、速水は弾ける液体を喉に流し込み息をついた。

     周囲の離反。
     だが、それは覚悟していたことでもあった。
     滝川のように、仲間たちも受け容れられる者はいつかは受け容れてくれるだろう。
     周りの反応は予想していたことでもあり、速水の心は芝村的無関心さでそれらをすでに受け容れようとしていた。
     人から怖れられようと疎まれようと、己の為すべきことを為すだけなのだと。
     彼の少女と共に歩む道を選んだ時に、速水の心はとうの昔に定まっているのだから。

     そして今、速水の頭を占めていたのは、むしろその彼のパートナーのことであった。

     ヒーローになれ、厚志。

     そなたがヒーローなら、私も嬉しい。
     そう言って笑った少女の面影が、フラッシュバックする。
     舞は早くから速水がそう在ることを望んでいた。
     だから、彼女の期待に応えるべく、速水自身も己の能力を磨き、舞と一緒に戦ってきたのではあったのだが。

    (僕ってやつは……ヒーローに相応しいといえるのかな)

     ──HERO。
     この戦いにおける人類側の決戦存在。
     舞は言う。
     それは、この不毛な戦いを終わらせ、人類を世界を救う存在になるのだと。

     所在なげに指が缶の縁をなぞった。

     だけど、舞。
     僕は、本当は人類や世界を守りたいとは……舞のようには思ってないんだ。
     僕がこの国を守るために戦うと言ったのは、それがイコール舞を守ることになるから。
     僕が命を賭けても守りたいのは、舞。君だけだから。

     I Need You。
     舞のためなら、僕は世界中を敵に回しても戦える。
     だけどもし万一……彼女を失ってしまったとしたら。
     それでも僕は、ヒーローとして世界を救うため戦うだろうか。
     
     血で汚れた舞の姿が脳裏を過ぎり、寒気を覚えた速水は目を固く閉じた。
     もしも、舞が死んでしまったなら……

     そうなったら、僕はもう戦えない。
     そうなったら、速水厚志という存在には生きている意味がなくなる。
     そうなったら、支えを失った心は砕けてしまう、と。
     暗い想像に、速水は項垂れた。

     君のいない世界なんてどうなってもいい……なんて言ったら。

     くすりと笑みが浮かんだ。
     さぞかし舞は怒るだろうな。
     そんなたわけた台詞を言う男をカダヤにした覚えはないとかなんとか言って。
     あの規格外の少女は、本気で、真剣に世界を救済するつもりなのだ。

     想像の中の舞に頬をひっぱられて、少年は困ったように苦笑した。
     その笑みがひっかかる。

     正直に言ってみようか。
     僕はヒーローにはなれない。たとえ幻獣の首を300狩ろうとも、速水厚志という男はヒーローとなる資質に欠けているのだと。

     彼女がヒーローとして選んだ男の正体を知ったら、舞は怒るだろうか。
     それとも悲しむだろうか?

     いや。

     速水には容易に想像がついた。
     そうなれば、「そうか」と。
     舞はそれを許容してしまうのだ。
     舞は戦わぬ者を責めず、他の誰にも戦うことを強要しない。
     そして、何を言うこともなく、代わりに自らが戦いに赴いてしまう。
     誰を恨むことも謗ることもなく、たとえ戦う者が自分ひとりであろうとも。

     準竜師に降下作戦を命ぜられた時のことが思い出される。
     舞には内密に現地へ赴いた速水は、そこで当の本人が待っていた事にひどく驚いたのだった。

    (なんで、舞がここに?)
     怒りも露にわけを追及する速水に対し、準竜師は悪びれもなく答えたものだ。

    (一人より二人の方が成功率は高くなるだろう?)
    (なぜ、舞も来ると事前に言ってくださらなかったのです?)
    (フッ。誰か他にやれる者がいると解かれば、そなたは断るだろうと思ったゆえな)
     速水は準竜師を睨みつけた。

    (あなたは僕のことを解かっていない。舞が来ると解かっていれば、僕は決して断ったりはしなかった)
    (あれを餌に引き受けさせるのも本意ではなかったのでな。それは本人の意思でもある)

     舞自身も淡々としたものだった。
    (そなたの自負心に傷をつけたのなら許せ。そなた一人に任せておけないと思ったわけではない。私は予備要員として最初から頭数に入っていたのだ)
    (そんな傷なんてないよ。そんなことじゃなくて!そしたらこの作戦は……僕が断ったなら舞一人でやることになっていたの?)
    (無論だ。他に誰がいるというのだ?)

     二人の芝村は、当然のことのように速水を見返していた。
     速水の気持ちを、彼らが理解することはないと解かる。
     このまま続けてもいつまでも話は平行線のまま終わるのだろうなと、噛み合わない思考に速水は抗議するのを諦めたのだった。
     芝村の一員となった今でも、これは速水にとって受け入れられない一線だった。

     芝村というのは度し難い一族だ。
     たとえ一族の姫の命であろうとも、人の命を露ほどにしか思わないのだから。

     熊本城攻防戦の時も、そうだった。
     あの時、舞を申し出を断って一人で行かせてしまっていたら……果たして彼女はどうなっていたのだろうか?
     少年は身震いした。

    (人のことをたわけだっていいながら、一番のたわけは誰だよ)

     ひたすら前向きで、誰かを何かを守るためならどんな不利な戦いをも辞さず、無自覚に簡単に己の命を差し出してしまう。

     舞こそは、ヒーローだった。

     速水は背筋がぞっとするような想像に囚われた。
     どうしても誰かがHEROにならねばならないとしたら、その役割は舞が肩代わりすることになってもおかしくはない。
     芝村によって戦神にその身を捧げられた少女。
     誰よりも強く、優しく、戦いを怖れず、純粋に世界を守りたいと願い、そのためには潔く自らの命を投げ打つことも厭わない者。

     舞自身に自覚はなくとも、彼女にはヒーローとなる必要条件が備わっていた。
     舞こそは芝村一族が育て上げたHEROたるべき存在ではないだろうか。ヒーローである自覚を持てば、舞は自らの命の灯が消えるその日まで、何処かの誰かのために戦い続けるだろう。

     昏い怒りにスチール缶が握り潰された。

     冗談じゃない。
     それくらいなら、自分でその役回りを引き受ける方がまだマシだ。
     というか、僕の方が適任だなと速水は冷笑した。

     僕は舞ほどお人よしじゃない。
     何と呼ばれようが、速水には舞以外の何かのために死ぬ気は金輪際なかった。
     運命が僕達を殺そうというなら、運命をも欺き出し抜いてやる。
     僕は舞と二人、どこまでも生き延びてやろうと、ふてぶてしく速水は思った。


    「ニャー」

     少年は我に返った。
     足元に擦りついてくる生暖かい感触を感じて見下ろすと、ブータがおねだりするように少年を見上げていた。

    「やあ。お腹がすいたの?」

     ポケットに猫缶があったっけ。
     速水は上の空で猫缶を取り出すと、半ば独り言のように話しかけながら、ブータの前に中身をあけた。

    「ねえ、ブータ。僕はどうしたらいいと思う?」

    「ニャニャ?ニャース」
     猫缶に夢中なブータを眺め、速水の唇に笑みがかすむ。
     ブータの頭を撫でようとして、食事中だからと遠慮して手を引っ込めた。
     同時に、好きなくせにあまり猫に触ろうとしない少女を想う。

     ……いいんだ。猫が暮らし良い世界であれば、別に、触れなくても。
     なんでも思い通りになるからと言って、それをするのではいかぬ。
     力持つ者が、許されぬこともある。
     それは真に好きな者を好きと言うことだ。
     抱きしめることだ。

     速水は急に泣きたい気持ちになった。

     大げさなことを言うなあと、あの時僕は笑ったけれど。
     舞と付き合って一月。
     今なら、彼女の想いが解かるように速水は思う。

     馬鹿だな、舞は。
     好きなものを、自分に縛り付けて傷つけてしまうのが怖かったんだろう。
     好きなものを、死地に一緒に連れていくわけにはいかないから。
     自分がいなくなっても、後に悲しむ者がないように。

     ヒーローであろうがあるまいが、護るべきもの、戦う理由が存在する限り、舞は戦いを止めはしまい。舞が心に呵責を抱かずに触れることができるのは、おそらく同じ戦場に生きる者だけなのだ。
     ならば、何を迷うことがある?
     どのみち舞と戦う道を選ぶのなら、為すべきことは変わらない。
     舞が僕をヒーローだと言うのなら、それでも構わない。

     舞さえ傍にいてくれれば。
     舞のためのヒーローになら、僕は、なる。

     それで十分だ──。

     膝の上に乗ってきたブータを抱え上げ、優しく撫でると、大猫は気持ちよさげに耳を寝かせ目を細めた。
     ゴロゴロいう振動が手に伝わってくる。

    (あとは……どうやって舞と一緒に複座に残るかだけど)

     舞を護るには、複座型の方が都合がいい。
     彼女は速水のために士翼号を陳情したようだったが、速水本人は新型機には興味はなかった。
     陳情するなら、発言力は十分にある。
     作戦会議では、必ず皆を説得してみせる自信もあった。

     ごめんね、舞。
     僕は君を手放す気は毛頭ないんだ。
     この件については、僕も勝手にやらせてもらう。
     舞が悪いんだよ。僕に相談もせず勝手に決めてしまうから。

     衝動的に、愛しい少女を引き寄せ、強く抱きしめた。

     僕から逃げ出そうとしても許さない。
     どんな手段を使ってでも、僕の傍に縛り付けてみせる。


    「ミギャァァ~~ッ!!」
     速水にぎゅーされ、ブータが悲鳴をあげた。

     舞にものすごく意地悪したい気分になり、速水はとても楽しくなった。

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