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    Missing half 9


     俺が信じていたヴァンであれば、選択したかもしれない一つの道。
     一つの可能性。

     普通なら、自分を家から引き離し、苦境に追い込んだ元凶となった人間を信じるなどありえないだろう。
     レプリカに居場所を奪われたのもダアトで生きるしかなかったのも、元はといえばヴァンが俺を拉致したせいだったが、その事実をやつの口から聞かされた後も、結局のところ俺はヴァンを憎み続けることができなかった。
     洗脳されたという気はしない。洗脳されて己の意志を手放していたのなら、俺がヴァンに逆らえたはずもない。ダアトでの俺は、不本意なことも数あったが自分の道は全て自分の思うように決めてきたのだ。

     俺を攫ってレプリカとすり替えた件については、ヴァンは必要だったからだと言うだけで謝罪も言い訳もしなかった。納得がいかず、怒りと憎しみの塊となっていた俺に対して、ヴァンは真正面から向き合い、ダアトで俺が生きていくための道を示した。剣技も、生きるために必要な知識も処世術もヴァンが教えてくれた。
     やつには何度も命を救われ、助けられた。
     俺だけじゃない。ヴァンに救われたオラクルを俺は何人も見てきた。
     幾度もそんな体験を繰り返せば、嫌でもヴァンがどんな男か分かってくる。
     俺の力を利用したいだけだとも分かっていた……だが。ヴァンが必要だというならばそれなりの何かわけがあるのだろうと。
     隙あらばヴァンを殺して逃げるつもりでいた俺は、いつしか奴を殺せなくなっている、それどころかあいつの役に立ってもいいと考え始めている自分の心に気づかされた。
     スコアを盲信し思考停止状態に陥っているダアトの詠師らと、ヴァンは全く違っていた。

     ヴァンのカリスマ性はオラクル内部に広く浸透していたが、よく見れば奴を崇拝する人間には二種類いた。スコアを信じる者、ヴァンの表層しか知らない者たちはどんな厳しい運命をも毅然として受け入れる主席総長の姿に感銘を受けていた様子だったが。スコアに傷つけられた者たち、ダアトから離反しヴァンに従った将兵らの多くは、スコアのもたらす理不尽な運命を善しとしない奴の理想と不屈の精神に惹き寄せられ集まってきたのだ。

    「俺にとって決定的だったのはケセドニア戦だ。あの戦の後、オラクルの殲滅はスコアに詠まれていたのだという噂が流れたが、オラクルの間でも仲間をスコアの捨て駒にしたと指揮官のヴァンを責める声は少なかった。詠師らを恨む声はあったがな。スコアで定められていた運命なら仕方ないと端から諦められていた節や、ヴァン自身が重傷を負っていたせいもあるが……スコアに見捨てられた戦で、あいつが力を尽くした事については誰もが認めていたのさ」

     あらゆる危険も困難も意に介さず、正しいと信じたならスコアに逆らってでも己の理想を貫き通した。
     7年の間に、俺自身が自分の目で見聞きしたあいつの姿。
     スコアを否定し戦い続けてきたヴァンの生き様を、俺は尊敬していたんだ──


     信じよ、アッシュ
     いずれ、世界を変えるためにお前の力が必要とされる時が来る
     私にはお前の力が必要なのだ


     その言葉の真意はどこにあったんだ、ヴァン?
     俺は、お前が俺に見せようとしていたお前の影しか見てこなかった気がしている。
     本当は、お前は俺に何を望み、何をさせようとしていたんだ?


    「今にして思えば、ヴァンの言葉に疑いを持たず心を許していた点じゃ、俺もレプリカとそう大差なかったわけだ。外殻大地を崩落させスコアに支配されないレプリカの世界を生み出そうとするあいつの計画を知るまでは、俺もヴァンを信じ切っていたんだからな」

     そう、もしも俺とレプリカの立場が逆だったなら。
     もし、俺がバチカルの屋敷に戻っていたなら。ヴァンの教えを受け力の限り生き抜いたダアトでの日々がなかったなら。
     俺は、ヴァンの計画に気づいたか? 止めようと行動したか?
     奴と戦う力を得ることができたか?
     結果的に俺はダアトで生き残ることができたが、刷り込みをされていない生まれたばかりのレプリカがダアトに残されたとしたらどうだ? なぜヴァンはレプリカに刷り込みをしなかった?
     あいつの……ルークの記憶にある奴の姿を知って、俺は疑いを持った。


     ガイとヴァンの妹は神妙な表情で俺の話に耳を傾けていた。


    「ヴァンはなぜ妹に譜歌を残した? 使い捨てのレプリカを弟子にして奥義書を残した? 基本段階だったとはいえ、ヴァンがあいつに仕込んだのは俺に伝えたのと同じまっとうなアルバート流だ。手慰みだったとしてもなぜレプリカにそこまでしてやる必要がある? アクゼリュスでヴァンはレプリカに暗示をかけて超振動を発動させた。本気で俺の超振動を利用するつもりなら、俺に対しても同じ手を使って良かったはずだ」

     やり直しのきかない過去の記憶が苦く胸を軋ませる。
     驚愕に見開かれた二人のの視線が同時に俺に向けられた。

    「暗示って?」
    「ちょっと待て。アクゼリュスで、ルークはヴァンにかけられた暗示のせいで超振動を使わさせられたというのか?」
     俺は頷いた。
    「そうだ。あいつには自分の身に何が起きたか理解できてなかったようだがな」
     沈黙が落ちた。
    「あの時……ルークはずっと自分のせいじゃないって」
    「ルークはヴァンに騙されていたんだしな。その上、自分の意志でやったっつー自覚がないなら、そうも言うわけだぜ」

     苦しげな表情を滲ませ目を伏せる二人を前にして、不安げに戸惑う声が聞こえた。

    (どういうことだよ、アッシュ?)
    (ふん、ここまで説明してやってもまだ分からねえのか、お前は?)

     筋金入りの馬鹿だな。

     本人すら分かってないんじゃ、こいつらにしてもルークの事情を慮ってやれたはずもなかったか。
     ぎり、と歯をくいしばる。
     ──いや。俺たちの過ちはそんな些細なところにあるんじゃない。
     俺たちは全員とるべき行動を誤ったのだ。

    「そいつは俺やお前たちの問題だな。俺たちのとった態度が追い打ちをかけたのに違いはないが、あいつの生存本能が壊れちまった大本の理由はチーグル以外の俺たち全員から見捨てられた記憶やアクゼリュス崩落そのものにあるんじゃない。お前たちがあいつを咎めた理由もアクゼリュスを崩壊させたからじゃねえだろう。それはあいつ自身にも分かっている。それでも、自分の意志で超振動を起こしちまったのとヴァンの暗示に逆らえずに使ってしまったのとでは、後者の方がヴァンのせいにできる分だけ少しは救いがあるといえるかもしれないな」
     一瞬、ティアの方へ視線を走らせ頭を振ると、ガイが口を開いた。
    「ホドが崩落した時……ヴァンはどんな風に力を使わさせられたんだろうな。どのみちスコア通りにアクゼリュスがルークの力で崩落するなら、自分の意志でやってしまうより他人に強制されてやった方がまだマシだと」

     ──そう考えてヴァンはルークを偽り、暗示をかけたというのか?

     俺はガイに視線を返した。
    「俺は一つの可能性を言っているにすぎん。それに、どんな理由があろうとも、ヴァンが俺たちを裏切ったことや多くの人間が死んでいったことを正当化できるとは思わねえからな。……だが」

     俺もレプリカの塔で同じ類《たぐい》の決断をした。
     1万人のレプリカの命と引き換えに他の人間を命を救うという選択をな。
     ヴァンはホドにあった第七譜石を見ていた。ユリアの譜石に刻まれていた滅亡のスコアを知っていたんだ。……おそらくは初めからな。仮に、世界の半分もぶち壊さねえ限りスコア通りにオールドラントは滅びると確信していたなら、


     俺はヴァンと同じ道を選んだかもしれない。


     ガイの静かな声が室内に響いた。
    「俺も、ずっと心にひっかかっていたんだ」

     俺には、ヴァンがティアや俺を本気でレプリカにすげ替える気だったとは思えなかった。
     ラルゴにしてもだ。死に際のあいつはナタリアの幸せを望んでいたと。俺にはそう思えた。

    「そう考えるなら、ヴァンは俺たちにオールドラントの未来を託したのかもな。オールドラントの人間に存在価値があると、希望と可能性が残されていると信じるなら、お前たちがやってみせろと」

     私を倒して、お前たちが信じる世界の未来を切り拓けと──

     悲痛な声でヴァンの妹が言いつのった。
    「そうだとしたら、兄さんも世界を救いたいと思っていたのなら、なぜ信じてくれなかったの? 兄さんのせいで多くの悲しみが生まれてしまった。兄さんと私達が力を合わせれば、もっと違う形でスコアを変えられたかもしれないのに」
     彼女の問いに答えたガイの言葉にはほろ苦さが含まれていた。
    「その程度の小手先の力じゃ滅亡のスコアを回避するには足りないとヴァンは考えたんだろう。最後まで、俺たちは、やつの心を占めていた絶望の闇を打ち破ることも、信念を変えさせることもできなかった。そいつができていたら……世界の在り様は今とは違ったものになっていたかもしれないな」

     ヴァンが何を思い戦っていたのか。やつの本心も真実も今となっては知る術もない。
     どの道が正しくて、間違っていたのか。

     だが、世界は滅びず、今ここにある。
     俺たちは生きて、スコアから離れ、自らの意志で未来に向かって進もうとしている。
     それが全ての結果だった。



    「兄さんの、ばか……」



     アイスブルーの瞳からはたはたと涙がこぼれ落ちる様を目にして、俺は焦った。
     ヴァンの妹は強い女じゃなかったのか?
     そもそも、俺はヴァンを想う彼女の心の負担を軽くしてやりたいと思ってこの話をはじめたはずだった。
     くそ、ナタリアならまだしも、やはり女を慰めようなんて俺の柄じゃなかったか。
     あいつならこんなとき肩を抱いてやるのか? いやなんで俺があいつの代わりにそんなことまでして、……っていうか待ちやがれ!

    (!? なんでお前までが泣くんだ? 場所を考えて少しはこらえろ!)
    (う、うん……)

     自分の目頭が熱くなってきたのを感じて俺は慌てた。
     いやおうなしにルークの悲しみの波に巻き込まれる。

     戸惑った様子で俺とヴァンの妹を見比べるガイ。俺たちの代わりのつもりか、躊躇いがちにガイが彼女の肩を抱き寄せたのを見て取ると、感謝しつつ俺は急いで立ち上がり、二人に背を向けた。
     込み上げてきた感情を強引に捻じ伏せる。何も出すまいと俺は固く目を閉じた。

    「しばらくの間一人にさせろ。シュウの許可はとってある。心配するな、一刻もすれば戻る」
    「待てよ、アッシュ?!」
    「……そいつを頼む」

     唇をかみ締めて背中から追いかけてくる声を振り切ると、剣を掴んで俺は足早に部屋から外へと逃げ出した。なんてことだ。


     今の俺の顔を他人に見られるのは死んでもごめんだった。



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