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    Missing half 4



     ──血迷っていたとしか思えない。全くこの時の俺はどうかしていた。
     そもそも、チーグルなんぞ助けようとしたのが間違いだったのだ。

     邪魔なソーサラーリングをチーグルの頭から胴体に押し込むと、流れの勢いで岩に激突してしまわないように俺は片手で必死で水を掻い潜った。流れが激しい。切り立った両岸が思った以上に長く続いたのも誤算だった。
     落ちた時のショックでチーグルが気を失ってくれたのは幸運だった。意識がなければ水も飲まないし余計な手間もかからない。下手に起きて騒がれでもしたら更に面倒事が増えていただろう。

     ──が。そのうちに、流れが次第に速くなり滝にぶち当たったところで、良い運ばかりが続くとは限らないという現実を俺は思い知らされた。否応なしに滝から落ちる、落差は短かったが落ちた瞬間、俺は右腕に烈しい衝撃と激痛を感じた。
     よりによって俺の落ちた場所に岩がなくともいいだろうに。内心で毒づきながら闇雲に岸に這い上がって程なく、こちらが対岸側だったことに気づいた。気づいても今更どうしようもない。どのみち上がる岸を選んでいる余裕なぞ、半ば溺れかけていた俺にはなかった。

     気休めにすぎないだろうが、魔物から多少は身を隠せる岩陰に移ると、チーグルを地面に手放す。岩壁に背を預けて荒い息を整えながら、俺は現状を確認した。
     右腕負傷。荷物なし。剣もなし。もっとも剣があったとしても当面は持てそうにもないだろうが。最悪だ。ガイたちからはだいぶ離れてしまっている。部隊の被害程度は分からないが、負傷者が出ていた状況からみて戦闘が終わりしだい最寄りの野営予定地へと直行している可能性が高い。
     となれば、なんとか自力で隊に合流するしかあるまいが……怪我さえしていなければ余裕で日没前には追いつけただろうが、負傷して消耗したこの身体では暫くは動けそうにもなかった。

     ずぶ濡れ状態で痛みを堪えつつ、懐から携帯用の薬袋を取り出す。まさかこんなハメになるとはな。ヴァンの妹には感謝しなくてはなるまい。
     ホーリーボトルの栓を抜くと同時に、清浄な氣が辺りに満ちていく。
     感覚を研ぎ澄ませて周囲に魔物の気配がないのを確かめると、俺は右ひじに左手を当てた。外傷はあるし少しでも動かすと酷く痛むが、比較的腫れも少ないし皮下出血はない。関節が外れているようだが骨には異常はなさそうだった。
    「折れていないだけマシか。ったく、仕様がねぇな……」
     グミを口に含むと、歯を固く食いしばり、目を閉じて集中する。躊躇いをきっぱりと捨てて一気に関節を元の場所にはめ戻した、瞬間。激痛が右腕から身体中を、脳天を貫くが、構わず最後まで処置をし終えると俺はグミを呑み下しながら地面に転がった。全身の毛孔が開いて脂汗が噴き出してくる。どくどくと脈打つ痛みに上手く呼吸ができない。



    「アッシュさん……大丈夫ですの?」



     痛みに喘ぎながら朦朧とした頭で薄目を開けると、震えながら俺の方に近寄ってくるチーグルの姿があった。
     再び目を閉じると、俺は吐き捨てた。

    「俺に構うな」
    「……で、でも……ッ」
     泣きそうな声に、俺の我慢の糸が切れた。今の俺はお前どころじゃねえんだ。
    「うるせぇ。お前に……構ってやっている余裕はねェんだ。いいから黙って休んでろ。騒いで魔物を呼び寄せるんじゃない」
    「アッシュさん……」


     幸いにも、チーグルは静かにしていたようだった。
     グミが効いてきたか、徐々に痛みが和らいでいく。

     再び目を開けると、チーグルはまだそこにいた。
     体が張り裂けて目玉がとれるんじゃないかと思うほどに涙を垂れ流している。
     思わず、ため息が出た。

    「──バカが。何を泣いてやがる」
    「みゅう……お役に立つどころか、ボクのせいでアッシュさんがお怪我をされてしまったですの……」

     主人に似るのもいいかげんにしやがれ。
     腕の状態を確かめながら身体を起こす。
     情けなくしょげかえる毛玉を前に、空を仰ぎたくなった。

    「俺の怪我は単に運が悪かったにすぎん。それに助けたくてお前を助けたわけじゃない。ガイに頼まれてたから仕方なくだ。それと……、」

    (あいつなら、こうしただろうからな)

     渋い表情になったのが、自分でもわかった。
    「恩に着る必要はない。俺はお前の主人の代わりをしただけだ。勘違いするな」

     舌打ちすると俺はチーグルを睨んだ。
     現実の問題として、隊に戻るまでの道中を、こぶ付きで魔物と戦うだけの余力はなかった。
     こいつの面倒を見るのはもう沢山だったし、ガイとも連絡をとらなければならなかった。

    「悪いと思うなら俺の言うことを聞け。……お前の方は問題ないか。怪我や疲れで動けねえようなら正直に言え。嘘はつくなよ」
     チーグルはこくこくと頷いた。
    「ボクは元気ですの。火を吹くのも岩を壊すのも空を飛ぶのも大丈夫ですの」
     俺は頷いた。
    「それなら命令だ。このホーリーボトルをくれてやる。これだけあれば本隊に戻るまでは足りるはずだ。お前は先に戻れ。お前だけならそのソーサラーリングで対岸まで渡れるだろう」
    「アッシュさん……」

     チーグルは魔物の気配に敏い。多少の魔物ならリングの力で牽制することもできるし、俺が同行するより却って速く安全に帰還できるはずだ。
     瓶とグミの入った小袋の紐をチーグルの身体にかける。
     これで話は終わりだと、壁際に寝転ぶと、俺はチーグルに背中を向けてみせた。
     
    「分かったら行け。これ以上俺に面倒をかけさせるな。……暫く休んだら俺もここを出る。ガイと合流したら俺は自力で野営地に向かっていると言っておけ。探しになどくる必要はないとな」
    「必ずお伝えしますの! 必ずアッシュさんの助けを呼んできますの!」

     なにを言ってやがる?
     慌てて振り向く。

     一瞬、決然としたチーグルの瞳が目に入った。
     水色の毛玉はくるりと河へ向きを変えると、あっという間に俺の視界から消え失せた。 


    「待てチーグル! 俺の話を……」


     ……聞いてなかったのか……あんなでかい耳をしていながら。
     人の話を聞く気がねえのか、あのブタザルめ。


     どっと疲れが押し寄せるのを感じて、俺は再び地面に横たわると目を閉じた。
     起きれば、移動中はまた魔物との戦闘だ。ホーリーボトルの効果が続いているうちに、少しでも休んで体力を回復しておかなければならなかった。
     一人で夜営することも考えていたが、強行すればなんとか日暮れまでには野営地に着ける。捜索隊など出されてただでさえ落ちてる戦力を分断させるのはまずい。こうなれば多少無理をしてでも成早でガイと合流する道を最優先した方がいいだろう。

     思えば、チーグルがどう言おうが、あの心配症が何もせずに大人しく俺たちの帰りを待っているとは考えにくかったのだ。







     負傷者多数、重傷者なし、死者なし……行方不明者1名。


     その1名がアッシュとの報告を受けて、ガイは下唇を噛んだ。
     心配ではあるが、部隊を取りまとめて安全な場所まで移動しなければならない。負傷者の手当もあるし一晩は休むことになるだろうが、明日には帰途につくことになる。
     そもそも哨戒の目的は、新手の魔物の棲息地域と増加原因の特定だった。理由はまだ分からないが、思った以上に重量級の魔物の数が増えている。この戦力で無理に探索を続ければ、そのうちには死者が出てしまう。となれば、部隊の安全を考えれば、一刻も早く帰還するのが上策といえた。

     日はまだ中天を回っていない。
     十分とはいえないが、アッシュを探しにいく時間はなんとか残されていた。

     兵士らが落ち着いたのを見届け、後事を小隊長らに託すと、ガイは単身戦闘のあった河岸へと取って返した。急がなければ。遅くとも明日の朝までにアッシュと合流しないと別行動になってしまう恐れがある。夜間の危険を考慮すれば、少なくとも今日中にはアッシュを見つけないとかなりまずい。
     集落までは直行しても二日はかかる。魔物もいる。手練れのアッシュとはいえ、単独で帰還するには、それはあまりにも長く危険な道のりだった。

     仲間たちの目撃情報からすると、戦闘中にアッシュとミュウは河へと落ちたらしい。河縁の岩の上に落ちていた剣を拾い上げると、ガイは厳しい視線を水面へと向けた。流れが速い。
     動ける状態なら、河川沿いに移動している可能性が高いだろう。動けない状態なら河岸のどこかに避難している可能性が高い。
     三つめの可能性をガイは考えなかった。アッシュは強い。あのしぶとい男がそう簡単に死ぬとは思えなかった。


     魔物の気配を避けながら、流れの音を頼りに、岩を越え木々をかき分けて河を下っていく。
     半時ほど進むうちに、小さな獣の動くカサリという音がした、と同時に姿を現した水色の塊に、ガイの心は明るくなった。金切り声を上げて、ミュウがガイの胸に飛び込んできた。

    「ミュウ!」
    「ガイさあん! やっとお会いできましたの! 大変ですの! アッシュさんが大変ですのーー!」
    「アッシュは一緒じゃないのか?」

     アッシュの苦境を伝え聞くと、ガイは表情を曇らせた。
     ミュウが身体にかけていた袋の中身を確認する。幾つかの空瓶。念のためと言わんばかりに、ミュウが無事戻れるだけの瓶やグミが律儀に入っていた痕跡が見てとれた。アッシュの手元に残されたホーリーボトルは多くないだろう。

    「おいおい、そりゃマジやばいぜ。利き腕を負傷した上に剣もなしじゃな。ここらの魔物はけっこう凶悪なのが混じってる。いくらアッシュったって危険が大きすぎるだろうよ」
    「アッシュさんは迎えにくるなって仰ってましたの。でも、ボクはとっても心配ですの」
     同意を込めて嘆息するガイ。
    「そうだな。早くあの意地っ張りを迎えにいくとしようか。肝心なところで他人に迷惑かけまいと気にする辺りはホント似てるというか、あいつに輪をかけて頑固だよなァ」

     ミュウの案内でさらに進む。
     午後の日のある時間の半分が過ぎ、戻るならそろそろ時間切れだと焦りはじめた頃。ミュウが不安げに耳をそばだてて、立ち止まった。

    「魔物の気配がするですの。近くに沢山いるですの。……アッシュさんもいるですの!」
    「急ごう!」

     素早く走りだすガイ。
     群れをなす獣たちの咆哮が近づいてくる。
     烈しい光、続いて爆発音と大地の震えを感じる。幹や梢の隙間から垣間見える閃光は、譜術の放つフォニムの輝きだろう。

     ガイが現場にたどり着いたとき、戦闘は終わろうとしていた。

    「エクスプロードッ!!」

     炎の爆発に巻き込まれて、悲鳴を上げながらウルフが吹き飛んでいく。
     ここまで譜術だけで魔物を退けてきたのか。この程度の魔物は確かにアッシュの敵ではないが、此処に至るまでもっと強力な魔物に遭遇していてもおかしくはない。武器もなく負傷した身体で無茶するよと、ガイは安堵しながらも半分あきれた。

    「アッシュさん!」
    「俺の見せ場をつくるには遅すぎたようだな。大丈夫か、アッシュ?」

     肩で息をしながら気怠げに乱れた髪を払うと、アッシュは物騒な視線をガイに向けた。

    「来るなと言っておいただろう。指揮官が部隊を放り出して何をしにきた」
    「何をって。そりゃあ、お前を探しにきたんだが。全員を無事に帰還させるのも隊長の務めなんでな」
    「お前が抜けたら部隊の戦力が落ちる。この一帯は危険だ。魔物によってはお前なしではあいつらの手に余るぞ」
    「見損なうなよ。うちの連中の腕もそう捨てたもんじゃないさ。野営地の安全はちゃんと確保してある。それより、その危険地帯を剣も持たずに一人でほっつき歩いてる馬鹿を見捨てて帰るわけにはいかないだろう。……お前が俺の立場だったら探しに来るだろうが」

     そう言って差し出された剣を見つめると、アッシュは左手で剣を受け取り……ふいと視線を逸らした。
    「ふん。礼は言わないからな」

     剣を手渡しつつ、ガイはさりげなくアッシュの全身に目を走らせた。胴衣やマントは乾き切っていないし、あちこち破れて血で汚れている。流された時のダメージが残っているのだろう。顔色も悪い。右腕の応急処置はしてあるようだが剣を使えるほどには回復していない様子だ。何でもないように見せているが、ぎこちない所作を見れば相当消耗しているのは一目瞭然だった。ここは少し休ませるべきだし、手を貸したいのは山々なんだが……
    (素直じゃないからなァ)
     言葉を選びつつ、用心深くガイは口を開いた。

    「いいってことよ。これも仕事のうちだ。……たいぶ疲れている様子だし少し休んでから移動した方が効率がいいと思うが、どうする?」
     アッシュは頭を横に振った。
    「いや。時間が惜しい。夜になればかえってやっかいなことになる。できるだけ日のあるうちに戻ったほうがいい」
     やっぱりそうきたか。
     ガイは頷くとグミの入った袋をアッシュに手渡した。
    「それじゃこれを食っておけ。……ああ、妙な意地は張るなよ? 自分じゃ分からないだろうがどうしようもなくボロボロに見えるんだからな、お前。俺も人一人担いで帰るのはごめんだしな、頼むから野営地まではしっかりしていてくれよ」

     憮然とした表情でガイを睨みつけるアッシュ。
     気まずそうに小袋を手にして顔を背ける。低く呟かれた返事はどこか歯切れが悪く、その口調に怒りは感じられなかった。

    「……この借りはいつか返す」

     いちおう感謝されてるのか?
     これは照れてんだろうな、きっと。ひどく解かりづらいけど。
     
     ともあれ、魔物の死臭が漂うこの場は早く離れた方がいい。
     さばさばとした調子で、ガイはアッシュを促した。

    「そんじゃ行きますか。しんがりには俺がつく。ミュウには先導を頼む。魔物の気配がしたらなるべく避けてすぐに逃げるからな」
    「はいですの!」
    「……わかった」

     一瞬、隊列に異議を唱えようとするそぶりを見せたアッシュだったが、思い直したように何も言わずにガイの前を進みはじめた。アッシュの歩調に合わせて歩きながら、こりゃ本格的に参ってるんだなとガイは改めて気を引き締め直した。
     無言のまま黙々と二人と一匹で来た道を戻る。

     幸いなことに手強い魔物に遭遇することもなく、日暮れ時には野営地に着くことができた。


    「アッシュ!?」
    「アッシュさん!」


     到着するなり、倒れて気を失ったアッシュを支えながら、ガイは胸が痛むのを覚えた。
     肩くらい貸せたのに。
     馬鹿野郎、なぜ何も言わなかった? なんで俺を頼ろうとしない?


      それなら……七年間存在を忘れ去られていたアッシュは、
      誰が支えてあげればよろしいんですの?


     ──今になって、あの時のナタリアの言葉を思い出すとはね。
     これは、こいつを顧みようとしなかった過去のツケなんだろうな。
     ルークなら……きっと俺の手を取ってくれただろう。
     ルークなら、こんな形での無茶はしなかったろうし、俺だってさせなかった。


     俺は、アッシュに心を許されていない。


     意地を張り通すのも、ここまで来ると恐れ入るぜ。
     ゆっくり休めよ、アッシュ──







     帰途にあって。
     ガイはさらに後悔の念を深めることになった。








    「ドレイクだ!!」
    「8、9……数が多すぎる!」

     マルクト部隊の譜術攻撃が炸裂し、地に墜ちたドレイクにキムラスカ兵が剣戟を振るう。
     ガイの鳳凰天翔駆が魔物の巨体を巻き上げる。
     譜術攻撃と守護方陣を連発するアッシュ。
     だが、あと一撃が足りない。守護方陣では間に合わない、このままでは死者が出るとアッシュはとっさに判断した。
     
    「俺がとどめを刺す! 全員退くんだ、早くしろ!」


     剣を空へと高く掲げる。


    「絞牙鳴衝……」


     突如として、激痛に胸を貫かれて息が詰まった。
     身体の最奥から始まって細胞の隅々まで、全身を支配していく烈しい痛みと虚脱感。
     存在自体が喪われていくような、この感覚は──


     音素……乖離?


     ばかな、なんだって今さら、この非常時に?
     今はそれどころじゃねェんだ
     もってくれ、この一撃だけは……


     強引に、無理やりに気力を振り絞って超振動を放とうとした、
     その時に。

     意とせずに、手から剣が滑り落ちる。
     はっきりと、必死の叫びが脳内に響き渡った。





     だめだ! やめるんだ、アッシュッ!!!






     覚えず、口元に笑みがかすむ。
     遅いぞ、屑が。
     はじき出されるように意識がかき消される。

     




    「レイディアント・ハウル!!!!」






     両手から放たれた超振動の光に、最後のドレイクが消失する。
     光の渦の中心に佇む人影。
     白光の中、夕焼け色をした髪がなびく、その朱金の輝きを……
     ガイは茫然として見つめていた。


    「……ルーク」


     光が消えると同時に、糸が切れたように地に倒れこむ身体。
     ──幻のように。


     その赤い髪から、朱金の輝きはすでに失われていた。




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