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    Missing half 1


    「ともあれ、ベルケンドで検査を受けてください。ビックバンの事例は十分に検証されていませんし、最終段階を経たのちに、蘇生したオリジナルとレプリカがどうなるかは私にも予想がつかない。貴方の身体が心配です」

     検査の後。一室に集まった仲間たちは神妙な顔つきで、結果を告げるジェイドの言葉を待っていた。一通りデータを確認すると、ジェイドはアッシュに微笑みかけた。

    「固有音素振動数は、記録と完全に一致します。確かに貴方は『ルーク』に間違いありませんね」
    「おいおい、こいつがアッシュじゃないかもって、本気で疑っていたのかよジェイド?」

     これだから学者ってやつはと。あきれたようにガイが両腕を広げた。
     ジェイドは肩をすくめてみせた。

    「疑っていたわけではありませんけどね。単なる確認ですよ」
    「それで、アッシュは大丈夫ですの?」
     心配そうに身を乗り出すナタリアに、ジェイドは真顔となった。

    「今のところは。ただ、血中フォニムが飽和状態となっているのが少々気になります。アッシュの言葉通りにルークが存在しているとすれば、彼のフォニムが拡散せずに残留していると考えられますが……どうにも半端なのですよ。一人分なら多すぎ、二人分なら少なすぎる」

     画面が切り替わって、フォニムの標準値との比較が表示された。
     数値を見つめるジェイド。

    「ルークも存在していると考えれば、少なすぎるのです。一方で、一人分のフォニムとしては異常なほどまでに過剰で、生体の維持可能なぎりぎりの線でバランスをとっている感じに思えますね。当面は経過観察を要する、といったところでしょうか」

     ジェイドの視線が、アッシュの背中の剣へと向けられた。

    「これは推測ですが。ローレライの剣の持つ第七音素を集める力が、拡散しようとするフォニムを引き留めているのではないかと。剣は使い手の意志なくしては作用しない。──恐らくは、無意識のうちにアッシュの意志がルークのフォニムを引き留めているように思われます」

     不安げに、アニスが言った。

    「そしたら、アッシュがルークの事をいらないって思ったら、ルークは消えてしまうの?」
     ジェイドは頷いた。
    「かもしれません。しかし、仮にそうなったとしても、アッシュを責めるのは筋違いというものです。本来なら、体内にある異物は排除しようとするのが生物の本能なのですから。アッシュの立場から言えば、自己の存在を常に危険に晒している極めて不自然な状態といえます」
     ガイの表情がこわばった。
    「ルークの方が消えるのが、本当は自然だと?」
     感情を交えない研究者としての言葉が淡々と続いた。
    「そうなりますね。だから、いくらルークに戻ってきて欲しくても、アッシュに無理を言うのはなしですよ。そもそも、まだルークの存在が証明されたわけではありませんし」

    「勝手に決めるな。それなら証明してみせればいいんだろう?」

     瞬間。
     室内の空気に緊張感が走り抜けた。

     苛立たしげに一同を睨みつけると、踵を返して部屋を出ていくアッシュ。
     ジェイドは軽くため息をついた。

    「ということですから。アッシュはああ言っていますが、ルークの帰還を期待しすぎてはいけませんよ。彼も言ってましたが、これはアッシュとルークの問題です。我々が口を差し挟むべき話ではありません」
     頭を振って、懸命にナタリアが言いつのった。
    「それはそうですけど。願うのは構わないでしょう? アッシュとルークがともに戻る道がないとは言い切れませんわ」
     口元を緩めるジェイド。
    「そうですね。諦めるのはまだ早すぎますか」
     それまで無言のままで話を聞いていたティアが、静かに言った。
    「でも、アッシュの身に危険が及ぶようなら……ルークの帰還は望んではいけない事よね」
    「ティア!」

     悄然と部屋を出ていくティア。すぐさまナタリアが後を追った。

    「みゅう……」
     残された三人と一匹は顔を見合わせると再びため息をついた。
     テーブルに頬杖をついた姿勢で、アニスがぼやいた。

    「なんとかならないの、大佐? 例えばルークの身体をもう一つ作ってそっちにフォニムを移すとかさ」
     ジェイドは首を横に振った。
    「そんな簡単なわけにはいきませんよ。元々レプリカを複製すること自体が、被験者にとっては音素乖離の可能性を伴う危険な試みなのです。今のアッシュの身体は、一度元素レベルまで分解した身体を音素でもって再構成したという点ではレプリカと同じです。レプリカのレプリカは劣化しやすい上に、最悪の場合、アッシュの方が音素乖離を起こして死亡する可能性があります。それにアッシュのレプリカを作ったとしても、レプリカの身体にルークの意識や記憶を移せるかもわかりません。例え全てが上手くいったとしても、再びビックバンが起きてしまえば、結果は今と同じということです」
    「はあ。問題多すぎ。つまり却下よね」

     コテンとテーブルに突っ伏すと、アニスは呟いた。

    「それにしても、どうしてアッシュはあんなに拘っているのかな? 以前はルークのこと嫌ってて、馬鹿だの屑だのって散々罵ってたのに」
     小さく首を傾げるミュウ。
    「アッシュさんの屑は、ミュウのブタザルと似てますの」
     忠実なチーグルの言葉に、ガイがククと小さく吹いた。
    「愛情表現の裏返しか。あれであいつ、結構ルークのこと気に入っていたのかもな」
    「ふうん、そんなもんかな」

     ジェイドは眼鏡を外すと、微かに懸念を帯びた眼差しをガイの方へと向けた。

    「しばらくは様子を見るしかありません。彼らのことを頼みます。私も定期的に様子を見に伺うつもりですが、何か異変を感じたり心配な事がありましたらすぐに私に連絡をください」
     左拳を胸にあてると、力強くガイは頷いた。
    「ああ。任せとけって」
    「ミュウも心配ですの。一緒にお伴しますの!」
    「ごめん、あたしは教団の仕事があるからさ。一緒にはいけないけど気が向いたら顔を見にくるね」








     ティアに追いつくと、ナタリアは癒しの力を与えるように、ティアの背中に手を触れ寄り添った。目を閉じると、ティアは力なく呟いた。
      
    「……怖いの。ルークが生きていると信じて、また失ってしまうのが私は怖い」

     ナタリアは、ティアの後背にそっと語りかけた。

    「これは私の勘ですけど……アッシュとルークは二人一緒に戻らなくてはならないのですわ。ルークを失えば、アッシュも遠くないうちに消えてしまう。私にはそんな予感がするのです」
    「ナタリア?」

     驚きに蒼い目が見開かれた。
     ナタリアはティアの手を取ると優しく握りしめた。
     
    「アッシュは気休めの嘘を言うような甘い方ではありません。彼が言うのならルークは必ず生きているのです。私はそう信じます。……ここで諦めてしまったらルークは本当に消えてしまうのではなくて? ルークは生きていると、私たちが信じなくて誰が信じますの?」
     王女の真剣な瞳が、ティアを捉えた。
    「勇気をお出しなさい。ルークはきっと戻ってきます。貴女なら必ず彼を見つけられるはず。私はそう信じてますわ、ティア」











     ──状況は変わっているんだ。
     あの時お前が家に戻るのを嫌がったのは、音素乖離のせいで身体が消滅しかかっていたからだろう?
     再びお前を失うことで父上や母上を悲しませたくなかったから、だからお前は


    「戻るつもりはない。あそこはもう俺の家じゃねえ。それに、母上は俺たちが二人で戻ることを望んでいらした。どの面さげて俺一人だけ戻れるっていうんだ」


     お前の家だろう! 二人とも戻らないよりはいい。お前だけでも


    「戻らない。そんなことより俺にはすべきことがある。果たさなければならない責任がな。取引を持ちかけてレムの塔で一万人のレプリカたちに命を捨てさせたのは、この俺だ。奴らとの約束は守る」


     ナタリアのことはどうするんだ? あいつはずっとお前の帰りを待って──


    「その言葉はそっくりお前に返すぜ。ヴァンの妹のことを考えるんだな」










    「バチカルにはお戻りになりませんの?」
    「ああ」

     俺の返事を予期していたかのように、ナタリアはあっさりと頷いた。
     悪いとは思ったが、俺の意志は変わらない。
     俺を見つめる寂しげな瞳から、俺はきっぱりと目を逸らした。

    「頼みがあるナタリア。俺が戻ったことは、父上や母上には伝えないでいてほしい」
     気丈に王女の顔に戻ると、ナタリアは俺に言った。
    「分かりました。でも、諦めたわけではありません。貴方が故郷にお帰りになる日を、私はいつまでもお待ちしておりますわ」
     ドレスの裾を翻すと、彼女は俺の傍から離れていった。


     すまない、ナタリア。




    「──お前には、ルーク・フォン・ファブレとして国を動かすって方法もあると思うが」

     突然、声が聞こえた。
     木陰で剣の手入れをしているガイの姿が目に入る。
     今の遣り取りが聞こえていたのだろう。
     余計なお世話だと、俺はそっけなく答えた。

    「国元の話はナタリアの方がうまくやれる。一人で動く方が俺の性には合っている」

     ……共に生きることはできなくとも。
     違う形で、俺は、あの日のナタリアとの約束を果たすつもりではいた。
     呑気な笑い声が聞こえた。

    「はは……お前もアッシュとして長く生きすぎたようだな。もっとも、ルークにしても公爵稼業が合っていたとも思えんが」
     不毛な会話に、俺は話題を変えた。
    「レプリカたちは、今どうしている?」

     ガイは既に一本目の剣を磨き終わると、二本目の剣の手入れに取りかかっていた。
     剣を調達しなくてはと考える。ローレライの剣は普段の戦闘用には向かない。

    「まあまあってとこかな。キムラスカもマルクトも、レムの塔での約束を果たそうと努力はしている。レプリカを保護する法律や施設をつくって、新地を開拓してレプリカの国も作りはじめた。順調に進んでいる所もあるよ。だけど、市井の隅々まで法や王の意志が行き渡っているかといえば、そうともいえないのが現状だ。レプリカに対する差別、人身売買、奴隷化、性的虐待。最近に聞いた話では、レプリカの臓器どころか第七音素を抜き出して違法に売りさばく闇組織までが出てきたらしい。その辺はジェイドの管轄だな」
    「酷いものだな」

     いくら布告を出そうが法で取り締まろうが。人の悪意そのものがなくなるわけじゃない。
     念入りに刀身を確かめると、ガイは手を止めて剣を鞘に納めた。

    「お前さえよければ、いずれ手を借りることになると思うが。とりあえずは……これだな」

     ガイが差し出してきた剣を、俺は受け取った。
     実戦で荒っぽく使われた痕跡の残る──オートクレール。
     この剣には見覚えがあった。

    「鈍ってるんじゃないかと思ってさ。新しい剣にも慣れておいた方がいいだろう。アルビオールが来るまで時間もあることだし、お手合わせ願おうか」




     近況を聞いた俺は、当面の間、ガイとティアの二人と行動を共にする道を選んだ。
     選んだというか、選ばされたというか。
     ガイのやつが、頑として俺と一緒にいると言ってきかなかったからだ。

    「お前、自分の身体が経過観察中だって事、本当に分かってるか? ジェイドからも頼まれてんだ。無茶しないように、当分俺がお前の見張り役につくことになったんでよろしくな」
    「俺をあの馬鹿と一緒にするな。自分の面倒くらい自分でみられる」
    「まあ、いっか。お前が嫌だって言っても勝手についていくだけだし。ルークがいるっていうなら、お前の身体はルークのものでもあるんだぜ? ひょっこりルークのやつが出てきたら俺が面倒みてやらなくちゃいけないだろ?」

     あいつの記憶にあるガイとの遣り取りが脳裏に蘇った。
     過保護にもほどがあると呆れるが、あいつとガイにとってはそれが普通だったようだ。ガイは絶対に譲らないだろうと、俺には想像がついた。
     
    「……好きにしろ」


     あいつの仲間たちは、それぞれに自分のやりたいように生きている様子だった。


     ナタリアはキムラスカの王女として、国政の手助けを。
     ジェイドはマルクトの軍人として、主にレプリカの救助とレプリカ絡みの犯罪の捜査を。
     多忙な時間の合間にフォミクリーの研究も再開したと聞いた。
     よくそんな気になれたものだ。
     アニスは教団の立て直しと、レプリカイオンの養育を。

     そして、ガイとティアはレプリカの国を作る手助けをしているらしい。
     国といってもまだ大きな村といったところだと、ガイは笑った。
     レプリカの集落へ行くと決めた時のこと、

    「あ、それと。これ注意な」

     ガイはじっと俺をみた。
     
    「お前の口癖だった『レプリカ野郎』は厳禁だ。ルークに対して言うのはお前たちの問題だから口出ししないが、他のレプリカたちには刺激が強すぎるからな」
    「あいつに対してはともかく、他のレプリカ達を傷つけるつもりは毛頭ねえよ」
    「ああ、わかってる。あれはルーク限定の愛情表現と思うが、念のためだ」

     何を勘違いしているんだ、こいつは? 俺をなんだと思ってやがる。



     爆音と共に、空から飛晃艇が降りてきた。



    「アッシュさーん! 迎えにきましたよー!」



     アルビオールから降りてきたギンジが笑顔で手を振る姿が見えた。
     俺自身の記憶にある馴染みの顔にホッとする。
     ギンジに対しては余計な気遣いをする必要はない。

     あいつの仲間たちは、正直なところかなり鬱陶しすぎる。



     俺たち三人は、その日のうちにレプリカの集落へと出立した。






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