SS部屋

    二次SS&感想置き場です

    プロフィール

    夏風

    Author:夏風
    拍手&一言連絡はこちら→_旦~~

    pixivリンク先はこちら


    土竜穴から引越しました☆

    SS用拍手(ジャンル別)

    コメントは任意&非公開です☆

    ブロとも申請フォーム

    カウンター

    スポンサーサイト

    上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
    新しい記事を書く事で広告が消せます。

    空輝く日を待ちながら(前編)

                                         
     鈍い午後の光が差し込む執務室にて。
     白鳩便で届いたばかりの書簡を前に、グウェンダルは眉間の皺を深めていた。

    「ヴァルトラーナから緊急連絡があった。我が軍との交戦開始直前に、前触れもなく大竜巻が発生し敵方の艦船が5隻沈没。──大シマロン艦隊が撤退したそうだ」
    「なんですと!ま、まさか……」

     寝耳に水。
     常識的には有り得ない急展開を告げる報告に、動揺しつつギュンターは机に両手をついた。
     有り得ない。
     だが、その非常識な事態を引き起こしかねない、引き起こすことの可能な人物が、眞魔国にはただ一人存在していた。

    「このような荒業をやってのける者はこの世に一人しかいないはずだ。……ユーリ陛下の所在はどこだ?ギュンター?」
    「陛下のお姿が見えないと、先ほどヴォルフラムが。不審者の侵入や不穏な気配の報告は受けていませんが、城内を探させて、眞王廟へも使いをやったところです」

     グウェンダルは素早く考えを巡らせた。
     とにかく、一刻も早くユーリを探し出し異変がなかったかを確認せねば。それから……
     摂政と王佐は、眉根を寄せると視線を交しあった。

    「……それにしても妙だな。無茶をするにしても、敵方とはいえ船を沈めて人命を危うくするなどとは、とてもユーリのやり方とも思えん」
     菫色の瞳が懸念に揺れた。
    「ええ。陛下には私も今朝お目にかかりましたが、いつもと違う様子はございませんでしたし、あれから1日と経ってはいません。陛下のなされた事だとすれば、どうやってこの短時間に血盟城から大シマロン艦隊まで移動されたのか……」

     ──その時。
     キィと扉の開かれる音と同時に、声が響いた。

    「その件については、僕が説明するよ」
    「猊下!」


     何かあったな。


     土埃まみれの服に幾分乱れた黒髪。物腰は落ち着いてはいるものの、日頃の闊達な笑顔も余裕もなく張りつめた表情で執務室へと入ってきた少年のただならぬ気配に──
     グウェンダルとギュンターは即座に理解する。
     この事態の急変は、やはりユーリ陛下の引き起こされたものなのだと。




     少年の顔に見える隠しきれない疲労の色に気づくと、ギュンターは即座に気を取りなおした。

    「ともあれ、椅子におかけください猊下。ひどくお疲れのご様子ですが、いかがなされたのですか?」
    「眞王廟から馬を飛ばしてきたんだ」
    「眞王廟から?猊下は、本日は血盟城におられたはずでは?」

     どんな非常時でも貴人への気配りを忘れない教育係が甲斐甲斐しく大賢者に椅子をすすめるのを眺めやりながら、グウェンダルは重々しく口を開いた。

    「猊下。陛下は今どこにおられるのだ?ご無事なのか?」
     半ば予期していた答えが返ってきた。
    「渋谷は……今は地球に戻っている。大シマロン艦隊へ乗り込んだまでは良かったんだけど、不測の事態が起きてね」
    「やはりそうか。ユーリ陛下は一体どうされたのだ?」

     いっとき閉じられた漆黒の瞳。
     が、すぐに少年は面を上げると、静かな口調で淡々と話を続けた。

     戦争を止めたい一心で、ランジールに直談判しようと、渋谷が敵陣へと乗り込んだこと。
     時間と場所を短縮するために、血盟城から戦場への移動には次元移動を利用したこと。
     移動に必要な魔力の提供者として、大賢者と勝利が同行したこと。
     ランジールの旗艦に移動する予定が、何故か小シマロン王の旗艦に移動してしまったこと。
     小シマロン王の裏切りに遭い、サラレギーに意志を強奪された渋谷が魔力を発動してしまったこと。
     あらかじめ眞王に退路の確保を依頼していたこと。
     眞王の力によって、渋谷は勝利と共に地球に送られ、大賢者のみが事後処理のためにこちらの世界に残ったこと──

     暴挙ともいえる貴人3人の危険な行為に異議を唱えたいのを懸命に堪える王佐に視線を向けると、自省するように少年は言った。

    「──フォンクライスト卿も気づいていたけれど、サラレギーは神族に繋がる者である可能性が高いと僕はみている。渋谷が暴発する直前……僕は魔力ではない何か別の力の気配を感じた。神族の血を引く者であれば何らかの法力を持っていても不思議はないしね。恐らく渋谷はサラレギーの力に操られて魔力を解放してしまったんだと思う」

     青い目が細められ、グウェンダルは顎の前で組んだ両掌を握りしめた。
     濃灰色の髪がこめかみに揺れた。

    「ユーリ陛下はいつ戻られそうか?」
     少年の視線が落ちた。
    「僕と渋谷のお兄さんが力を貸したとはいえ、連続して次元移動を行って疲れ切っている処に自分の意志に反して無理矢理に膨大な魔力を引き出されたんだ。渋谷の消耗はかなり激しいと思う。地球時間で少なくとも3日は寝込んでいるだろうね。それ以上に……サラレギーに裏切られたことでの精神的ダメージも大きいはずだ。渋谷は彼を信じ切っていたから。もし自分のした事を覚えていたとしたら、暴発した自分の力が大勢の兵士を巻き込んでしまったと知ったなら……さすがの渋谷でも立ち直るのに暫く時間がかかるとみていた方がいい」

     眉間のしわが4割増し深まると、僅かに頭が垂れ深々とため息が漏れた。
    「だろうな。こうなることを危惧していたのだが……」
     ぷはっと溜めてきた息を吐き出すと、堪え切れなくなったギュンターが金切声を上げた。
    「信じていた友に裏切られるとは……!ああ、陛下ッ!なんとおいたわしいことか!」

     苦痛の影を忍ばせた黒い瞳が、静かに伏せられた。

    「すまない。今回の不始末は全て僕の読みの甘さが招いた結果だ。渋谷は誰一人傷つけることなく全てを守るつもりでいたんだ……眞魔国の兵士も、大シマロンの兵士も、みんなをね。目的を果たせなかった上に、僕は渋谷を守り切れなかった。そもそもの発端を言えば、渋谷の望み通りに策を立てると言って彼を炊き付けたのは僕なんだ。渋谷のせいじゃない」
     一瞬の戸惑いの後、グウェンダルは険しい表情を幾分和らげた。
    「──状況は分かった。予期せぬ災難というものはどんな時も起こり得るものだ。猊下も……そう強くご自分を責められるな」

     心なしか自嘲ぎみに語る少年の言葉を耳にしても、動じる気配もなくグウェンダルの答えは至極あっさりしたものだった。

    「結果だけを見るのならば、悪い事ばかりだったわけではない。陛下の望んだ形ではないが、陛下の行動によって眞魔国の兵士全員の命が守られたのだ。敵艦隊は撤退し、しばらくの間は大シマロンが我が国に手を出してくることはあるまい。艦隊同士の全面衝突が避けられたことを思えば、敵味方とも被害は最小限に食い止められたともいえる。当面の問題は十貴族たちだが……殊にヴァルトラーナは何の知らせもなく魔王の介入があったことに対して憤りを感じているだろうが」
    「それについては、必要とあれば僕が、」

     摂政は頭を振った。

    「いや。猊下が表に出れば事の次第をとことん追及される恐れがある。陛下の不在にしている理由も、猊下が応じれば知らぬ存ぜぬでは通るまい。サラレギーの裏切りが公に知られたなら……まあ、多くの人間は信じぬだろうし、あの小シマロン王がそう易々と非を認めるとも思えぬが……人間たちへの反感から和平の道が遠のくこともあり得る。これ以上さらに戦が長引くのはユーリ陛下の望むところではないはずだ」
     ギュンターが心配そうに口をはさんだ。
    「それに、小シマロンにはコンラートがいます」
     王佐の言葉に頷くグウェンダル。
    「そうだ。あちらの状況を把握せぬまま不用意に動くのは得策ではない。むしろ猊下は眞王廟に戻られた方がよいだろう」
     摂政の意図に気づいたギュンターが、その言葉を後押しした。
    「グウェンダルの言う通りです。十貴族たちへの弁明は、グウェンダルと私で十分対応できましょう」

     少年が問いかけた。
    「大シマロン軍の損害の程度は?」
     摂政が答えた。
    「敵艦5隻が沈んだが、交戦による死傷者はない。嵐はごく短時間で治まったようだ。……力を使い切った後でなければこの程度ではすまなかったろうな。ランジールは海に落ちたらしいがその後の消息はまだ伝わってきてはおらん。大シマロン軍がいた海域で見つかった敵兵は救えるだけ救助して捕虜にしたと、ヴァルトラーナからは報告があった。船は沈んだが大シマロン側も自国の兵士を救助した後に撤退したというから、人的被害は殆どないとみていいだろう。捕虜は港に着き次第に、同盟国経由で自国に帰還できるよう釈放する予定でいる。……陛下ならそう望まれるだろうからな」

     少年は微かに口元に笑みを浮かべた。

    「渋谷はいいチームメイトを持ったね」
    「それは何です?」
     笑みが深まった。
    「君たちになら安心して任せられるってことだよ。僕が言うまでもなく皆が渋谷の心を、魔王の意志を理解してくれている。適材適所ってやつだね。どうやら僕の出る幕はなさそうだ」
    「猊下……」

     もの思わしげな視線を向けてくる王佐と憮然とした表情となった摂政に、大賢者はにっこりと笑いかけた。

    「意地を張って僕が矢面に立つと却って事が大きくなりそうだし。二人に面倒な役目を押し付けることになってしまってすまないけれど……後をよろしく頼む。フォンヴォルテール卿。フォンクライスト卿も」

     ──やはり、この方はふてぶてしく飄然と笑っている方がよい。
     かつて耳にしたこともない、懇願と謝罪の入り交じった大賢者の言葉に、居心地悪げに咳払いをするとグウェンダルは躊躇なく答えた。

    「承知した。新しい情報が入り次第、眞王廟へは使いを出す。猊下は休養されることに専念された方がよい」
    「陛下と猊下をお助けするために我らがいるのですから。後のことは心配なさらず、猊下はどうぞご自愛ください」
     予期していなかった反応に漆黒の目が見開かれた。
    「え、そんなに僕ひどい顔してるかなあ?」

     沈黙と共に向けられた二対の気遣わしげな視線に、眞魔国の至宝の片割れである少年は困り顔で苦笑した。

    「──わかった。お言葉に甘えてしばらくは眞王廟で大人しくしてることにするよ。本当に……感謝する」


     慌しい足音に続いて、バタンと扉の開く音が盛大に響いた。


    「兄上!ギュンター!ユーリがどこにもいないッ!!!」
    「ヴォルフラム!」


     飛び込んできた三男坊の必死の形相に。
     プーの登場が猊下との話のついた後で良かったと、額に手を当て摂政と王佐は心底ホッと胸を撫で下ろした。





     嵐が去り二人きりとなった執務室で、グウェンダルとギュンターは揃って溜息をついた。
     猊下の知らせがなければ困った事態となっていただろうが、国を守る立場にある者としてすべきことは明らかであり、その点については何の心配もなかった。
     心配なのは、眞魔国の中心に並ぶ二人の少年のことだ。

    「──全く。たった3人で戦を止めに飛び出すとは。双黒の者というのは、どうしてこうも揃いも揃って無茶ばかりするのか」

     沈痛な面持ちで項垂れるギュンター。

    「猊下のあのように憔悴しているお姿を拝見するのは初めてです。猊下のご様子から察するに、ユーリ陛下もこれまでになく深く傷つき御心を痛めておられるのかと……」

     グウェンダルが低く唸った。

    「不幸中の幸いは、大シマロン側の被害が少なかったことだ。……猊下の慧眼に救われたな。眞王陛下にご助力いただくとは猊下以外の者には思いもよらぬ策だ。恐らく手遅れとなる前に猊下とショーリが陛下を止めたのだろうが……万一大シマロン艦隊が全滅でもしていようものなら取り返しのつかない事態となっていただろう」

     大凶事を示唆するグウェンダルの言葉に、王佐は飛び上った。

    「そんな事になれば陛下がどれほどまでに苦しまれたことか……あ゛あ~ッ想像したくもありません!」
    「落ち着け。最悪の事態は避けられたのだ」
    「これが落ち着いていられますか!あのお優しい陛下がッ!無慈悲に多くの人間を海に沈めた魔王として陛下の名が民の心と歴史書に刻まれるなどと考えただけでも!陛下の願われる魔族と人間との間に恒久平和をもたらす道も永遠に閉ざされてしまったに違いありません!」
     
     深く息を吐くとグウェンダルは目を閉じた。

    「それでもユーリ陛下の行動には、それだけの危険を冒す価値があったのだ。陛下が自ら行動せず、成行きに任せて事態の推移を見守るのみだったなら……戦端は開かれ、多くの兵士が国に帰ることなく海の藻屑となって消えていたことだろう。彼らの命が救われたのは、陛下と猊下の勇気と英断によるものだ」
     箍が外れたように、ギュンターはさめざめと泣きだした。
    「それはそうですが……陛下と猊下の心中と思うとお二人があまりにもおいたわしくて」
    「次元移動に必要な魔力の半分を提供したというなら、猊下も相当消耗しておられるはずだ。陛下がいつ戻られるか分からぬ上に猊下の身に何かあれば国内に動揺が広がる。魔王と大賢者に代われる者などないのだからな。眞王廟でなら眞王陛下や巫女たちが猊下を半強制的に休養させるだろう」

     鼻をすする音に恨み言が混じった。

    「それにしても、お二人はなぜ私たちに事前に相談してくださらなかったのか」
     目を上げるグウェンダル。
    「話を聞いていたならば、ユーリ達の行動を認めていたか?」
     一瞬の躊躇いの後、王佐は小さく嘆息した。
    「いえ。何としてでもお止めしたでしょうね」

     眞魔国の支柱そのものである魔王と大賢者、そして地球の次期魔王の3人が揃って敵地に乗り込む作戦など、臣下としては容認できるはずもない。
     青い瞳には微かに悔いの色が浮かんでいた。

    「此度のことは、何がなんでも大シマロンとの戦いを止めたいという陛下の意志を軽くみていた我らにも落ち度がある。陛下の真意を汲んで行動された猊下を責めるわけにもいくまい。陛下に猊下にショーリ、その上、眞王陛下まで一枚かんでいるとなれば、我らに止める術などなかったろうよ」

     執務室の窓から見える空は雲に覆われていた。
     太陽の見えない空の下、灰色の城下は元気を失くし沈んでいるようにみえる。
     気持ちを切り替えるように、グウェンダルは背筋を伸ばした。

    「ユーリ陛下は必ず戻ってこられる」
    「そうですね……」
    「今、我らにできることは、それまでに眞魔国をしっかり守ることだ。……とりあえず鼻をかめ、ギュンター」
    「はい……(ぐすん)」
    「……早く拭け」

     なかなか汁の止まらない王佐から不機嫌そうに目を逸らしつつ、グウェンダルはうさちゃんのハンカチを差し出した。



    スポンサーサイト
    上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。