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    2013年12月

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    2013/12/21  船上で

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    船上で

     
     間が悪いとはこの事だ。

     右に金髪碧眼の眞王陛下、左に双黒の大賢者。
     テープで仮補修された二枚の肖像画と、左の絵と同じく双黒の髪と瞳を持つ少年の前で、ヨザックは盛大に肩を落としていた。全く。肖像画の復元作業が終わっていないのを失念して、猊下と一緒にこの廊下を通ってしまったのは大失態だった。

    「気にしなくていいよ、ヨザック」
    「しかし、猊下!」
     柔らかな双眸が、静かに、すまなさそうに切り裂かれた絵から自分の方へと向けられる。
    「いいんだ。創主を倒すためとはいえ……眞王も僕も君たちに容赦しなかった。これくらいされても仕方ないと思うな」
    (あちゃー……)
     ──容赦しなかったって。そういうお二人は、誰よりもご自身に対して容赦なかったじゃないですか。四千年もの長い間、そして乾坤一擲の大勝負に出たあの時も、俺たちよりずっと貴方は……

     大したことじゃないよと。むしろ相手を気遣うように微笑むその顔に、そんな顔をさせてしまった自らの過ちをヨザックは胸の内で呪った。





    「船の軋み音のせいかな。ちょっと……昔の夢を見てね。何でもないよ」

     再び規則正しい寝息が聞こえ始め、少年が寝ついたの確認すると、コンラッドは音を立てぬよう静かに寝床から起き上がった。
     魔王と並ぶ眞魔国の至宝である少年と共に、大シマロンへの旅に出てから2日目。心に懸ることでもあるのか、そう深くない眠りを何かに妨げられ彼が夜中に目を覚ますのは、コンラッドが気づいただけでも3度目となっていた。
     船室の帳の隙間からは、テーブルの前で警護にあたりながら剣の手入れをするヨザックの姿が見える。
     低く、静かに問いかけがあった。

    「またですか、隊長」
    「……ああ。うなされるというほどじゃないが、少なくともよい夢ではなさそうだな」
     ヨザックの前に座ると、眠りにつく少年に聞こえぬよう、小さく声を落とす。
    「わざわざご自身で大シマロンへ行こうとするのも、いつもは慎重な猊下らしくない。本当は猊下の心配事を俺たちにも話して欲しいところなんだが……」
     ご自分が撒いた種とはなんだ?それに、フランシアで宝剣泥棒の一味に遭遇した後に見た少年のもの思わしげな表情が、コンラッドの脳裏に未だひっかかっていた。

    「ふん。必要がなければ口を割らないだろうよ、猊下は」
     カンテラの光に剣をかざしながら、お庭番はぼやいた。
    「その点、坊ちゃんは隠し事のできない性質で、何をやらかしそうか考えている事も読みやすいし守りやすいんだがなァ……猊下ときたら典型的なクローゼット型人間で、周りに負担をかけまいと肝心な事は誰にも言わずに抱え込んで、ご自分だけで解決しようとされるから」
     磨きあげた剣を見つめ、ヨザックは自嘲気味に言った。
    「今でも思うんだよな。いくら真実を聞かされていなかったからとはいえ。あの時、なーんで俺は猊下のことを信じなかったんだろうなってさ」

     ヨザックの言う『あの時』とは、創主に支配された眞王陛下に、猊下がユーリの身体と魂を差し出した時のことを指すのだと、コンラッドにはすぐに察しがついた。

    「初めてお会いした時から猊下は言っていたんだ。どんな犠牲を払っても陛下は救わねばならないってな。猊下のことはずっと見てきて、あの方の陛下を一番に思う気持ちもそのお人柄も分かっていたはずなのに。……俺は自分が情けないよ」
     それにひきかえ、猊下の意図を察してモルギフの力を復活させたフォンクライスト卿はどうだったか。完全なる《創主打倒》のため、猊下が幾重にも張り巡らせた策の上で、それぞれに役割が与えられていたのだと承知はしていても。かの人の真意を見抜けなかった自分の目の節穴さ加減を思い返すたびに、後悔でヨザックは地面に穴を掘りたくなってくるのだ。
     コンラッドは視線を落とした。

     それは俺も同じだ──
     カンテラの暖かな夕陽の色に、18年前の光景が思い起こされた。

    「ジュリアの魂を守って地球に行った時、俺は猊下の魂を見た。猊下の魂は……ジュリアの魂と同じく、真っ白で一筋の歪みもなく丸く、美しかった。二つの魂は、天空に浮かぶ太陽と月に重なって、太陽と月そのもののように輝いていた」
     ヨザックの瞳に羨望の色が浮かぶ。
    「……へえ。さしづめ、類いまれなる一対の宝石ってとこかな。俺も見てみたかったなァ」
    「お前もいつも見ているじゃないか」
    「ま、そんな風に考えればそうだけどよ♪」
     陽光と月光に輝く二つの光球を想い返すと、コンラッドは微笑した。

    「──闇夜を照らす優しい光で道を示し、太陽に寄り添う者。猊下の魂を守っていた人は、彼の次の生がそうあれと願った。陛下が創主の手に落ちた時、俺は太陽も月も、暗闇の中に囚われてしまったのだと思ったが、それは間違っていた。あの絶望の闇にあって世界を救うために、猊下は揺るぎなく俺たちの行く道を照らし指し示してくれていたのだと……今なら、俺にもそのお心がわかる気がする」
     ヨザックが呟いた。
    「陛下にとっても俺たち全員にとってもひでえ茨の試練の道だったがね。……猊下はなんで真実を話してくれなかったんだろうな。その方が楽に事が運んだろうに」
     コンラッドは一瞬黙り込んだ。
    「万一のとき、俺たちが迷わず眞王陛下に剣を向けられるように、だろう。忠誠を捧げる主君を倒すより、忠誠に値しない悪となった存在を倒す方が楽だろうと。迷いの許されない局面で、俺たちの心の負担を少しでも軽くしようとされたのだと思う。それと──」
    「それと?」
    「眞王陛下を欺いてその手の内にあることで、ご自身を最後の切り札としたのかもしれない。最悪の事態となってもユーリ陛下だけは救えるように。……今となっては猊下の真意は確かめようもないがな」
     ヨザックは静かに剣を鞘に納めた。

    「……あーあ、だとしたら分かっちゃいないな、猊下は。信じた者に裏切られて惨めに生き延びるより、信じた者を守るために戦って死ぬ方が、よっぽど気持ちは楽だし幸せなのにな。自分が命を賭けて仕えてきた、忠誠を誓った相手が眼鏡違いだったなんて、武人にとっちゃそれ以上に不幸な事はないんだぜ?選べるものなら、断然俺は後の方を選びたいね」
    「眞王陛下や猊下を失っても、ユーリ陛下さえご無事なら俺たちは救われると、猊下はそう思われたのだろう」
     ヨザックは鼻を鳴らした。
    「陛下さえいれば猊下なしでもやっていけるってか?ちっ、猊下の考えそうなことだ」

     後頭部に手をやって背もたれに寄り掛かると、ヨザックは腹立たしげに天井を睨んだ。猊下の読みはおそらく当たっている。しかしそんなエンディングは断じて願い下げだし、ユーリ陛下だって絶対に許さないだろう。
     
    「俺たちの身に何かあったら陛下が悲しむと猊下はよく言われるけどな、猊下ご自身はどうなんだ。猊下になにかあっても坊ちゃんは悲しむだろうに。少しは自覚してもらいたいもんだ」
     コンラッドは頬を緩めると目尻を下げた。
    「まあ、無理だろう。その辺、類は友を呼ぶというか。猊下と陛下は似た者同士だから」
     左手で頬杖をつくと、ヨザックは諦めの笑みを返した。

    「俺たちが頑張るっきゃないってことですか」
    「そういうこと♪」

     二人の視線が、少年の休む帳の向こうへと注がれる。

     割と猊下は耳がいいからな。
     ひょっとしたら、今の話が彼の耳に届いていてもおかしくはない……

    「そろそろ代わろうか、ヨザック」
    「了解です、隊長」

     それはとてもありそうなことで、二人は無言で目くばせすると笑みを交わした。 
     護衛二人の話が聞こえているのかいないのか、キルトにくるまって眠る少年の影は身じろぎもせず、ひっそりと静かにその気配を感じさせなかった。





     双黒の少年は、海を見ていた。
     船縁にもたれた小柄な体の輪郭が、青い空にくっきりと浮かんでいる。その黒々とした瞳は波間の水底へと向けられ、彼は遠く深い物思いに浸っているようだった。

    「猊下」
    「ウェラー卿。どうしたの、何かあったの?」

     呼びかけると、見られていたのを知っていたかのように、驚きもせず和やかな微笑が返ってきた。
     実際、気づいていたのだろう。
     他意のない笑顔に、コンラッドは穏やかな微笑で返した。

    「いえ、何も。大シマロンまで時間がありますからね。猊下が退屈しておられないかと」
    「そうだなあ、退屈ってこともないかな。いろいろ考えておくこともあるしね」
     少年は手持ち不沙汰げに、こめかみに手をやると、くせのある黒髪を指で弄んだ。
    「考え事のお邪魔でしたか」
    「あはは、問題ないよ。眞王廟も巫女さんたちにコキ使われたり、外から見るほど静かな場所ってわけでもないからね」

     少年の傍らに立つと、コンラッドは水平線の彼方へと目を向けた。
     眼の前には海鳥が舞い、濃い潮の香りが船上を吹き抜けていく。

    「猊下はこれからも眞王廟に留まられるのですか?陛下もおられることですし、猊下も血盟城にいらっしゃればよいのに」
    「んー。僕もどちらかといえば隠居の身だからね。僕がいないと寂しい人もいるみたいだし、眞王廟にいるので丁度いいのさ」

     今を生きる者の妨げにならないように。
     言外の声を、コンラッドは聞いた気がした。

    「眞王陛下と貴方は違いますよ。貴方は陛下と共に、今を生きている」
    「うん。だけど僕の中に大賢者の魂と記憶がある以上、君たちにとっては……僕は大賢者だ。僕が望むと望むまいとね」
    「猊下……」
     気遣うような真顔に向かって、少年は笑いかけた。
    「そんな顔しないでよ。僕は僕でこの境遇を結構楽しんでいるんだからさ。滅多にできない体験だって。四千年分の魂の記憶があったり、生まれる前からの知り合いがいるっていうのは、ね」

     青空を振り仰ぐと、潮風に身体を任せながら少年は楽しげに言った。

    「僕は、渋谷がこの世界をどんな風に変えていくのかを見てみたい。君たちとどんなチームをつくって、どんなプレーをするのか。言うなれば、ボールパークは眞魔国、いや世界かな」

     渋谷がキャッチャーで、扇の要となって、君たちや各国の王の心を束ねている。そして君たちのプレーを眞魔国の民や世界中の人たちが見て、応援してくれている。例えるならそんな感じかなあ。

     思い出を手繰りながらコンラッドは言った。
    「昔、陛下の父君に誘われて、レッドソックスの試合を見たことがあります。野球の好きな人たちが集まって熱気に溢れ、球場全体が一つになっていた。全ての人が楽しげに笑い、叫んでいた」
     少し道化た突っ込みが入った。
    「いいプレーができたらね。エラーしたり気の抜けたプレーなんか見せようものなら、観客席からは怒りの声が飛んでくるよ」
    「そうでしたね。あの野次も凄かった」
     コンラッドはくすりと笑った。

     敵も味方も、正々堂々と戦って、精一杯生きて、輝いている。
     ボールパークにいる全ての人々が一つとなって、同じ幸せな時を共にしている。
     きっと、そんな世界を、ユーリ陛下は望んでいるのだと──

    「観戦した後に、陛下の父君にキャッチボールの仕方を教わりました。成長した陛下といつか再会した時に、キャッチボールの一つもできないようではいけないと」
    「へえ、だからウェラー卿はボールを投げる時のフォームがきれいなんだね」
    「といいますか、陛下に基本をばっちり叩き込まれましたので」
    「投げ方が悪いと肩や肘を痛めるから。渋谷は指導者にも向いていると思うよ。性格的な資質でいうならピッチャーにも向いてると思うんだけど……どんなに味方がエラーしても、苦しい試合でも、渋谷なら腐らずに最後まで諦めずに全力で投げ抜くだろう?そんな渋谷のためなら頑張ろうって、皆が思う」
    「そうですね」
    「そして、試合の勝敗を左右する大事な場面で……全てを背負ってダイヤの中心に立つのは彼だ。結局、最後には渋谷に全てを背負わせ、ゲームの命運を託すことになる」
     
     そんな彼の代わりをすることは、誰にもできない。その声には、どこか苦い響きが交じっているようにコンラッドには感じられた。
    「陛下は一人じゃありませんよ。バックには俺たちがいて陛下を支えている。それに」
     コンラッドは優しく言った。
    「その時、陛下をリードして陛下の球を受けているのは貴方のように俺は思いますね」

     柔らかな虹彩を放つ薄茶色の瞳に覗き込まれ、漆黒の目が見開かれた。
     少年は笑った。

    「渋谷のチームじゃ僕はただのマネージャー兼雑用係なんだけどなァ」

     ヨザックの声が甲板に響いた。
    「もうじき港が見えてきますよー!」

     眼鏡を替えてターバンを取り出しながら、少年は言った。
    「それじゃ、船を降りる準備をしようか」
    「はい、猊下」
     黒眼鏡に隠されて、少年の表情はすでに読めなくなっていた。
     伝えるタイミングを外したなと、見送り三振したのをコンラッドは残念に思った。


     遠慮はいりません。
     陛下にとっても、俺たちにとっても、貴方は大切なチームの一員なんですよ、猊下。


     船の上空には、真昼の太陽が燦々と輝いていた。




                          ──END──

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